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これで、婚約破棄ができますね!

 数日後、王室の詳細な調査で伯父さまの仄暗い計画は全て明るみになった。

 わたしの怪我に関しても、伯父さまが画策したことが証明され、見事ジルベルトの身の潔白は証明された。


「よかったですね、ジルさま!」


 わたしは部屋で紅茶をすすりながら、向かいに座るジルベルトに声をかけた。

 答えるように、ジルベルトもにっこりと微笑んだ。


「ええ。……傷はまだ痛みますか?」


 ギルバートに差し出されたスコーンを口いっぱいに頬張ったところで質問をされて、わたしは思わずむせ込んだ。


「ふぐっ。|もふひはくありまひぇん《もう痛くありません》」


 ギルバートが心配性なのでまだ包帯は巻いていたが、もう痛みは完全になくなっていた。

 鼻先にできたアースワームも歯形にも一応絆創膏を貼っているが、こっちも全く痛くない。


 口の中の物を紅茶で無理矢理流し込むと、わたしは満面の笑みを向ける。


「これでジルさまの濡れ衣もはらせましたし、婚約はしなくて済みましたね! 本当に良かった!!」


 わたしの素晴らしい活躍のおかげで、婚約からの処刑ルートは回避されたのだ。

 これからは心を入れ替えた立派な公爵令嬢として、脇役に徹しよう。

 そうだ、ヒロインとの恋仲をサポートするキューピットになろう。


 もはや推しの幸せを願う母親のような気持ちでにこにこと紅茶をすすると、ジルベルトがその笑みをさらに深くして瞳を伏せた。

 無言のまま、紅茶の揺れる液面を眺めている。


 どうしたんだろう。

 渋すぎたのかしら。


「そのことなんですが――」


 新しい紅茶を用意ししてもらおうとギルバートを振り返ったとき、ジルベルトがぽつりと呟いた。


「どうかしました? お腹でも痛いんですか?」


 一瞬、ジルベルトが眉をひそめたような気がしたが、瞬きをひとつした間に天使の微笑に戻っていた。


 気のせいらしい。

 ジルベルトはわたしの言葉を全く無視するように先を続けた。


「婚約は取り消しません」

「……は!?」


 がちゃん、と持っていたティーカップをソーサーに打ち付ける。

 だがジルベルトは全くお構いなしにニコニコと近寄ってくると、わたしの手からティーカップを奪い取った。


 あまりに自然な動作に、わたしは抵抗もできない。

 流れるように奪い取った戦利品をテーブルの上に置くと、わたしの手を取って跪いた。

 柔らかい唇が、わたしの手の甲に触れる。


「僕の婚約者になってください、ユーフェミア」

「いや、それはちょっと――」


 手を振りほどこうとするが、なんだかものすごく力が強い。

 目の前のジルベルトは笑顔なのだが、どこかこめかみに青筋が浮いているようにも感じる。

 怖い。


「言っておきますが、これはお願いではありませんよ」

「それはどういう……?」

「王子命令です」


 一切崩れない天使の微笑が、その瞬間悪魔の微笑みにしか思えなくなった。


「う、うそでしょ~!?」


 わたしの絶叫は屋敷中に響き渡った。


 結果、屋敷中の人間――使用人から両親に至るまでが部屋に押しかけ、その場でもう一度ジルベルトが婚約を表明して、全員から祝福される始末となった。


 顔を引きつらせているのは、わたしと(何故だか分からないけれど)ギルバートだけだった。


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