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わたしの名前は、ユーフェミア?

 聖地巡礼はわたしにとって、その世界に入り込める唯一無二の方法――だったはずなのに。


 いつも通りの金曜日。

 徹夜でお気に入りのゲームをして、朝一で制作陣のSNSをチェックして、実は今攻略しているラストシーンの舞台が日本の福井県にあると知ったら……行かないわけには行かなくない?


 こういうときのために、高校に入ってすぐに始めたバイト代は全額貯金。

 お年玉貯金の通帳も親から奪い返した。


 推しに使う金額、プライスレス。

 そう思って電車に飛び乗って、新幹線も梯子して、ようやくわたしはその頂に立ったのだ。

 文字通りに。


 その聖地は東尋坊。

 サスペンスでよく見かけるあの崖で。

 断崖絶壁で魔王と禁断の愛をささやき合うメリーバッドエンドを、その場所でクリアしよう……。


 わたしは行きの車内で一睡もしないままひたすら攻略を進め、さあ最後のシーンをと携帯ゲーム機を取り出して。


 そこで強風にあおられた。


 睡眠不足の女子高生の体なんてもろい。

 面白いくらいによろけて、わたしは崖から落ちる、落ちる、落ちる。


 これじゃあまるで、サスペンスの終焉に全てを諦めて身を投げる悪役じゃないか――……。


 最期に思ったのは、そんな下らないこと。


 だからでしょうか神さま。

 わたしが悪役令嬢なんぞに転生してしまったのは。







 ずるり、どごっ。


「大丈夫ですか、ユーフェミアお嬢さま!」


 瑞々しい音の後に響いた轟音。

 そして耳元で叫ぶ青年の声。

 目の前には眩しいばかりの晴天と、天使のように美しい顔を青ざめさせている男の子。


 恐らく、()()()()()()()()()()()()()

 わたしを押し倒す格好のまま、石像のように固まってしまっている。


 仰向けの状態で目だけをギロリと押し下げれば、泥の中で浮き島のように顔を覗かせている岩が見える。

 むくり、と男の子を押しのけるように身を起こせば、後頭部からぴゅーと血が噴き出した。


 お付きのギルバートが慌てた様子で真っ白なハンカチをあてがうが、それはみるみるうちに赤く染まって、反比例するようにギルバートと目の前の男の子の顔が青ざめていく。


 でも、わたしにとって今そんなのどうでもいい。


「ねえ、今なんて言ったの?」

「だ、大丈夫ですかと」

「違う、その後」


 青ざめた顔をしたギルバートが今聞くようなことかというような視線でわたしを見ているが、お構いなしにもう一度聞く。


「その後」

「……ユーフェミアお嬢さま、と」

「わたしの名前は、ユーフェミア? もしかして、ユーフェミア・グランツハイムなの?」

「そうですが……」

「グランツハイム公爵家の?」

「その通りですが……」

「ああ、死――」

「ちょ、お嬢さま!?」


 こうして前世の記憶を脳裏に叩き込まれたわたしの思考回路はショートして、気を失ったのだった。



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