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60 野営 2

 皆が野営の準備を頑張ってる中、アルバに私にも何かやらせてほしいとお願いしたところ、今回の料理当番である一番隊隊長のアリエスを手伝ってほしいと言われたので、料理の手伝いをすることになった。

 たくさんの人の中からミルクティー色のツインテールを探す。


『ドラが見つけてくるドラ!』

 

 私の肩の上にいたドラが野営地を飛んで回って、上空でクルクルと円を描いて居場所を知らせてくれた。

 

 ――あそこだ!

 

 大岩の上に騎士服のジャケットと弓を置き、白の襟付きシャツ姿で大量の芋の皮をナイフで剥いているアリエスの姿が目に入った。


「アリエスさーん、手伝いに来ました!」


「花巫女様が私の手伝いを? それは助かります! ……実は私の部下達に皮剥きをやらせたところ、実ごと剥いてしまうことに怒り、私一人で全部やると啖呵を切ってしまって後悔してたんです」


 手で小さな輪っかを作り、こんなに小さく剥いてたんですよと言うアリエス。

 籠の中には大量のジャガイモと大きな人参。

 確かにげんこつくらいのジャガイモがピンポン玉サイズに剥かれたら、怒ってしまうのも無理は無い。

 

「それは怒って当然ですよ、それじゃ食べる所ほとんど無いじゃ無いですか」

 

「私は平民出身なので皮付きのまま食べても平気なんですけどね」


 困ったような笑顔を見せるアリエス。

 貴族と平民が混じる神聖騎士団(ステラナイツ)。一番隊の隊長であるアリエスが平民ということに驚いた。


「私が平民出身と聞いて驚きましたか?」


「その……、騎士団ではアリエスさんしか女性を見かけないから、紅一点で頑張っててすごいなって思ってたけど、正直びっくりしました」


「それだけ癒しの魔法の使い手が重要視されているんですよ。癒しの力は聖樹から与えられた特別な力と考えてられています。この力を認められ現在は助祭の地位をいただいております」

 

 自信に満ちた顔でアリエスは近くにあった籠をひょいっと背負い、ナイフを腰に装着した。

 

「私は近くの川でホーンラビットの肉を捌いてきます。それまでの間、花巫女様には野菜の皮剥きをお願いします」


「分かりました、綺麗に剥けるよう頑張ります」


 腰掛けるのにちょうど良さそうな石の上に座り、食材の入った籠からジャガイモを取り出してナイフで皮を剥いていく。最初は楽しかったけど、今は何個目かわからないジャガイモを見つめながら心を無にして剥いているところだ。


「こんばんは、花巫女様」

 

 いつの間にか隣に二番隊隊長のトーラスが腰掛けていたようだ。

 短い黒髪で襟足に三つ編みのある、少しエキゾチックな魅力のある男性だ。


「トーラスさんこんばんは」


「あいつを助けてくれて有難うございます。あっ、あいつってのはアリエスの事です」


 ぽりぽりと額をかくトーラス。籠からジャガイモを手に取り、スルスルと綺麗にジャガイモを回しながら皮を剥いていった。


「いえいえ、私が出来るのがたまたま料理だったってだけですよ」


「あいつは昔から頑固なやつで、プライドが高いから人に頼る事が苦手なんです」


「昔から? 幼馴染なんですか?」


「はい。俺達はステム村っていう畑ばかりの小さな村の出身なんです。俺はその村の神父の息子でアリエスは平民の子でした。アリエスは口減しで弟を亡くしてるんです。そういう訳でアリエスの奴、食べ物を粗末にすることに敏感になってまして……。昨日の酒場での花巫女様がおっしゃっていた、食べ物で遊んではいけないという話に深く感銘を受けたと話していました」


 えっ、あの時アリエスさんも聞いていたんだ!

 

「そうだったんですね、大事な事を話してくれてありがとうございます」


 トーラスは話が終わると綺麗に剥き終えたジャガイモを籠にしまい去っていった。……さっきのジャガイモ私より遥かに上手に剥けてたなぁ。


 ふぅ。ジャガイモを剥く手を一旦止めて辺りを見回すと、団員がテントを張ろうとしているところを手助けするアルバ、火をおこしているレオ、そして疲れた表情を浮かべながらも笑顔を見せ一日の終わりを楽しんでいる様子の団員達の姿が見られた。


「只今戻りました! ……お、お前達⁉︎」


 アリエスが川から戻ってくると、アリエスに注意されていた団員達がやってきて揃って謝罪し、全員でキャロット魔人というどう見ても人参……の皮剥きに取り掛かかり、あっという間に下ごしらえが完了した。

 

 そうしてウィード村で買ったばかりの新鮮なミルクとバターを使用したとろーりホーンラビットシチューと、ホーンラビットと野菜の串焼きが出来上がった。

 鍋から上がる蒸気と、串焼きから出る煙の香りに誘われてお腹を空かせた団員がわらわらと器を持って集まって来ていた。


「花巫女様お疲れ様でした。後の配膳は部下に任せて、私たちは料理をいただきましょう」


 アリエスから三本の串焼きとシチューの入った器を渡された。


 料理を受け取った人達は焚き火の周りに集まっている。

 炎の暖かさと、パチパチと薪が燃えていく音に心が安らぐ。


「ハナ!」

 

 オレンジ色に照らされたアルバに手招きされて隣に行くと、ちょうど良いサイズの丸太が置かれていたのでそこに腰掛けた。


「料理当番お疲れ様でした。アリエスも助かった事でしょう」


「アルバはアリエスさんが一人で困ってたのを知って、私を手伝いに行かせたんでしょ? よく気が回るねー」


「おや、気付かれてしまいましたか」


「ふふっ」


 アルバがシチューの器を口へと運び、一口飲んだ。


「ハナが作ったシチュー美味しいです!」


「私はジャガイモ切っただけで、アリエスさんが作った料理だよ」


 私がそう言うと、アルバはシチューの中からジャガイモを探し出して口へと運んだ。


「ハナが切ったジャガイモが美味しいです」


「ぷっ、無理がありすぎるんじゃない?」


 ホーンラビットの肉は豚肉や鶏肉よりも風味があって、しっとりとした食感だった。モンスターが当たり前のように食材となっている事にもだいぶ慣れてきたと思う。

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