58 酒場にて 2
中央テーブルに用意された沢山の料理からビーンズサラダにローストチキン、キッシュなどを二つの取り皿へと盛っていく。私の取り皿にはドラ用のナッツも載せておこう。
「はい、ネモフィラの分取ってきたよー、この中に苦手な食べ物があったら私のと交換するから言ってね」
「ありがとうございます、どれも美味しそうです!」
ふとアルバの皿を見ると、ビーンズサラダとカットステーキが控えめに盛られていた。男の人にしてはかなり少ない量なような? 私が席に腰を下ろすと、アルバは手元のジョッキを持ち上げた。
「それでは乾杯しましょう、皆さん本日はお疲れ様でした」
「「「乾杯」」」
アルバはエール、私とネモフィラは葡萄ジュース、ドラは水の入ったコップを持ち上げて乾杯した。
ん! この葡萄ジュース、丸ごと絞って飲んでいるかのような濃厚さですごく美味しい!
アルバはエールの入ったジョッキを傾け、ゴクゴクと喉を鳴らしとっても美味しそうに飲んでる。
「プハッ! ……甘味とほのかな苦味が絶妙に調和し、飲むごとに舌に広がるバランスが絶妙です」
「へーっ、そんなに美味しいの?」
「ええ、ハナも一口飲んでみますか?」
この世界は十六歳で成人なので、私がお酒を飲んでもいいことになっているんだけど、うーん……。お酒はまだ私には早い気がする。
思わずアルバの唇に目が行った。飲みかけをもらって飲むってことは間接キスじゃん!!
うわーっ! 恥ずかしい!
「私は葡萄ジュースでいいー!」
間接キスなんて意識しているのは私だけだろう、恥ずかしさを紛らわそうとジュースをゴクゴクと飲み干してしまった。
カラカラと音を立て店員がワゴンを引いてやって来た。
「失礼致します、熱くなってますので火傷にはご注意ください」
店員がテーブルの上に鍋敷を置きその上に小さな鉄鍋を載せた。鉄鍋の中にはぐつぐつと音を立て白い湯気を放つチーズがたっぷり入っている。
一口大にカットされたバゲットと木串を置いて店員は別のテーブルへと移動していった。
うわぁーっ、チーズフォンデュだぁーっ! わーいっ。
お昼のラクレットも美味しかったけど、チーズフォンデュって一度は食べてみたかったから念願叶って嬉しい!!
木串の先端にバゲットを刺して、とろぉりチーズをたっぷり絡めていく。あれ……、チーズがどこまでも伸びていって中々ちぎれない。
「こうして串を回して、チーズを巻き付けるといいですよ」
困っているとアルバがお手本を見せてくれた。私とネモフィラはアルバを真似て、串をくるくる回してチーズを絡ませていく。
いただきまぁーす! ……熱っついけどおいしー!
チーズの風味がふわっと口の中に広がって、まろやかでクリーミーな味わい。ネモフィラは新たに注文したオレンジジュースを片手に持ちながら、フーフーと息を吹きかけチーズのかかったバゲットを美味しそうに食べていた。
みんなで同じ鍋のものを食べるのって楽しいなー。
「美味しいね!」
「はいっ」
ネモフィラと顔を見合わせて笑顔になった。美味しいものを食べると皆笑顔になる! 結構たくさん食べたなぁ。
「最後にチーズケーキも出ますから、その分の胃は空けておいて下さいね」
私がたくさん食べているせいでアルバに胃の心配をかけてしまった!? デザートは別腹だから大丈夫!
「ネモフィラ、ケーキ出るんだって!」
「嬉しいですー!」
ワァーッ、と少し離れた隣のテーブルから何やら盛り上がってる声が聞こえた。
「あぁ、どうやらチーズの中にバゲットを落としたら罰ゲームをしているようですね」
「へぇー! 面白そうですー!」
ネモフィラの目がキラキラと輝いている。
「だーめ。食べ物で遊んではいけないんだよ!」
私がそう言うと、周りが一瞬シーンとなった気がした。
「どうしてです?」
きょとんとするネモフィラ。
「食べ物は食べるために作られているからだよ、遊ぶならおもちゃで遊べばいいの。食べ物で遊んだら、食材と料理を作った人に失礼になるよ」
ネモフィラは賢い子なので、私の言った意味をきちんと理解した様だった。
「わかりました!」
素直! いい子!
「お前ら、今の聞こえていただろう? こんな小さな子でも分かっているぞ?」
アルバが静かに立ち上がってそう言うと、周りの席にいた全員がなぜか私に向かってペコリと頭を下げた。
……皆さん食べ物で遊んでいたみたいですね。
チーズの入った鍋は、バゲットを絡めて食べたことですっかり綺麗に空になっていた。美味しすぎてたくさん食べちゃったー。
食後にどっしりと重いチーズケーキをいただいて、それぞれの宿に戻った私達。ネモフィラと眠くなるまでおしゃべりをして楽しい夜が過ぎていった。




