55 フォレストウルフ
「「ガルルルルルルルルル!」」
鬱蒼とした森の中にモンスターの唸り声が響き渡る。
灰色の毛並みの狼が次々と木々の間から姿を見せた。
「どうやらフォレストウルフの縄張りに踏み込んでしまったようですね」
ジグザグと動きながら襲ってくる八匹のフォレストウルフ。
アルバはフォレストウルフに向かって腰を落とし煌々と輝く剣を構えた。手首を素早く返すことによって無数の斬撃が放たれる。
【雪月花】
フォレストウルフの体に光の斬撃が直撃し肉片となって地面に落ちていく。斬撃をかわした残りの二匹が勢いを止めることなく目前まで迫って来ていた。
「残りは私にお任せ下さい!」
ネモフィラが鞭を地面にピシャリと打ち付けると水しぶきが飛び散り、鞭のボディ部分を螺旋状の水が覆った。
【水刃】
ヒュン、と素早く鞭をふるうとまるで刃物に斬られたかのように二匹のフォレストウルフの体が分断され息絶えた。
「お見事です、ネモフィラ」
「団長さんもお見事でした」
アルバがネモフィラを褒め称えた後、モンスターの遺体へと近づいてマジックバッグで回収していった。
どうやらモンスターの死体をそのままにすると、別のモンスターが寄ってきたり、死体が稀にアンデッド化することがあるので、素材が取れない状態のモンスターはその場で処理するか、回収して後でまとめて燃やしているらしい。
「団長!」
アリエス率いる一番隊と合流した。アリエスの報告を受けるアルバ。
「一番隊負傷者おりません!」
「無事で何より。レオ達が心配だ、先を急ぐぞ」
「ハッ!」
森の奥へと進むほど瘴気はどんどん濃くなっていった。
メキメキ、バキッという音が聞こえた後、ドーン! と木が地面に倒れる音がして土埃が舞った。
土埃がおさまって視界が晴れやかになり、目に映ったのは巨大なフォレストウルフ一匹とそれに従う数え切れないほどのフォレストウルフと戦う、騎士団の姿だった。
「ぐっ」
レオの振り下ろした剣を爪で弾いた巨大なフォレストウルフはバックステップをしてレオと距離を置いた。
アリエスが驚きの声を上げる。
「あれは……、フォレストウルフの希少種!」
フォレストウルフ希少種は鋭い爪を奮ってレオに向けて木を次々となぎ倒していった。
「副団長ッ! 『光よ! 我が盾となれ!【神聖障壁】」
トーラスが光の障壁を作り出してレオと近くにいた騎士を守った。
倒れてきた木は障壁にぶつかり、角度を変えて落ちていく。
「六時方向へ逃げろ!」
レオの出した指示通り、周りにいた騎士達は六時の方向へと駆け出し、難を免れた。
トーラスを狙って飛びかかる手下のフォレストウルフに向けてアリエスが矢を放つ。
アルバは剣を空に向け、号令をかけた。
「総員傾聴! あのデカブツの後ろ足を狙い、これより同時詠唱により束縛魔法をかける」
「「「ハッ!」」」
「詠唱はじめよ!」
アルバが剣を振り下ろすと同時詠唱がはじまった。
『『『光よ! 地に立つものを縛りつけよ!【聖光の束縛】』』』
複数の光の杭が勢いよくフォレストウルフ希少種の後ろ足を貫通し地面に突き刺さった。
「グオオオオオオオン!」
怒りの声をあげ、フォレストウルフ希少種がレオに向かって大きな口を開いて襲いかかった。
「黙れ、デカブツ。『光よ! 地に立つものを縛りつけよ!【聖光の束縛】』
レオにより、鼻の下に光の杭を打たれて、口を開けなくなったフォレストウルフ希少種は脚をバタバタさせて抵抗している。
「総攻撃開始! 腹を狙え!」
「「「うおおおおおお!」」」
再びアルバの号令がかかる。
「ハナ、もう少し私の方へ」
「うん」
「雑魚はお任せくださーい! 【竜双水流】」
この場の雰囲気に不釣り合いな幼き少女ネモフィラが鞭のグリップを高く上げてXを描くように鞭を振るうと、二本の水柱が意思を持ったように私達を襲うタイミングを伺っていたフォレストウルフを追随していく。水に呑まれたフォレストウルフは水柱の中に閉じ込められて呼吸が出来ずに溺死していく。
騎士達の集中攻撃によりだいぶ弱ったように見えるフォレストウルフ希少種。
「とどめだ!」
アルバが剣を天に掲げると、天から光が差してアルバと剣を照らした。
「総員、ここから離れろ!」
アルバの様子を見てレオが周りの騎士団員に声をかけた。
光が集まったアルバの背中には天使のように輝く黄金の六枚羽根が光っている。
……え、まって、天使アルバまじ無理尊い! 正面から拝みたいっ!
【神聖なる断罪】
アルバが剣を振り下ろすと、フォレストウルフ希少種は光の中跡形もなく崩れ去っていった。




