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53 ウィード村*アルバ視点

 ウィード村が近いことをレオがハンドサインで知らせてくれた。

 母様からはチーズや雑貨をお土産に買って来て欲しいと頼まれていたのだが、ここには任務で来た以上全ての団員の模範となるべき団長の私が呑気に土産を買う姿を部下に見られるわけにはいかない。


「そろそろウィード村に着くようですよ、村で昼食を取り馬を休ませた後、一キロほど先にある森に向かいます」


 まもなく村に着くことと目的地である池のある森の場所について告げる。


「もうお昼なんだ。確かにお腹空いて来たかも」


「ここはチーズがとても美味しい村で、熱々のチーズに肉や野菜を絡めて食べるのが絶品なんですよ」


 チーズは産地によってはクセの強いものがあるのだが、ここのチーズは万人が好む味で、生きている内に一度は食べたほうがいいと言われるほどこの村のチーズは絶品なのだ。かくいう私も久々にこの村のチーズ料理が食べれることに心が躍っていた。


「わぁーっ、チーズ大好きだから楽しみ!」


 是非楽しみにしていてください、期待は裏切りませんよ。


 団員達は木々に馬を繋ぎ止め、私達を乗せた馬車は関所を通り抜けて行った。


「ご苦労だったな、これで何か美味しいものでも食べて来るといい」

 

 御者に労いのチップを渡す。


「へへっ! ありがとうございやす!」


 ハナと共に村に入ると、大きな白のパラソルのテラス席でピザを食べている団員の姿が見えた。あそこが昼食を取ることになっているミケの気まぐれ亭だ。

 現地到着後は速やかに昼食を取るべし、と伝えていたので、私よりも先に団員が食べていても何の問題もない。食べれる時に食べておくことの方が大事だ。騎士にはいつ何が起こるかわからないのだから。


「団長こっちこっち! ハナっちも!」

 

 店に入るとレオが立ち上がって場所を知らせてた。

 まだハナのことを馴れ馴れしくハナっちなどと呼んでいるのか! あとで厳重に注意せねば。


 ハナが腕を捲り、か細く白い腕に付けられているブレスレットが目についた。魔塔のあの人を思い出させるタンザナイトの宝石に嫌な予感がする。竜人族が瞳の色の宝石を渡す事は、特別な意味があることをこの少女は知っているのだろうか。

 

「あっこれはねリシュリューに貰ったお守りだよ」


 ……お守りと称して渡すとは、何と下劣な。

 私も何か特別な意味を持ったプレゼントをハナに渡そうと決意していると、店員がやって来てプレートに熱々のチーズをかけてくれた。カリカリに焼けた肉厚のベーコンにチーズを絡ませて頬張る。肉汁と濃厚なチーズが合わさってとても美味しい。久しぶりのウィード産チーズに舌鼓を打つ。ふとハナを見てみると、これ以上ないほどの満面の笑みで幸せそうに食べていた。美味しそうに食べている姿がこんなにも可愛いとは。まるで小動物のようで愛らしい姿に、つい笑みが溢れてしまった。


「すみません、あまりにハナが美味しそうにたべているのでつい」


「だって本当に美味しいんだもん」


 少しムスッとした顔すら可愛らしい。ついからかいたくなる。


『ハナー、これ硬くて中身が取れないドラ』


「ピスタチオですね。ドラ様失礼致します」


 ドラ様の幼い手では剥けなかったのだろう。小皿にあった殻付きのピスタチオの殻を割るついでに、大皿料理に手を伸ばした。


「ハナ、ピザやグラタンもありますよ。お取りしましょうか?」


「じゃあピザを一切れもらおうかな」


「かしこまりましたお嬢様」


 声のトーンを少し低めにして少しからかってみると、ハナは赤面して俯いてしまった。照れている様子も可愛い。


「お好みの方をお取りください、もう一切れは私がいただきます」

 

「ありがとう、こっちをいただくね」


 ハナはトマの実が好みなのかもしれないな、覚えておこう。


「集合時間まで余裕があるので、ふらっと村の様子でも見て回りますか?」


 さて、食事の後はハナと村を散策するとしよう。これはハナに村を案内するため、そして護衛としての大事な任務であって決して浮ついた気持ちでは無い。

 ハナの足が雑貨屋の前で止まった。何か欲しいものでもあれば買ってあげたいところだったが、そういうわけではなかったようだ。

 

「この村ってラベンダーで有名なのかな?」


「そうです、よくお気づきになられましたね! ラベンダー畑見にいきますか?」


「時間大丈夫?」


「馬に水を飲ませている頃ですし、時間に余裕はあります。せっかくなので見に行きましょう」


 時計台の針を確認すると、集合予定である正午の鐘がなるまで余裕があった。任務で来た時は団員達と、家族旅行でこの村に寄った時にラベンダー畑を見た事はあった。その時はただ匂いがキツイだけの花畑としか思えなかったが、いざハナと二人でラベンダー畑に来てみると、紫の絨毯が広がる世界の中に、私とハナしか存在しないような特別な空間に思えた。何よりラベンダー畑を背景にしたハナの姿がとても美しく、来て良かったと心から思えた。

 

「すごく綺麗、連れて来てくれてありがとう」


「私もこの景色をハナと一緒に見れて良かったです」


 私の世界を鮮やかに染めてくれるのは貴女ですよハナ。

 

『ドドドドラー!』


 ドラ様が蜂の集団を引き連れてこちらに向かって来た。

 ええい、村での魔法の使用は基本認められていないが、人命を守るためならば騎士法第十三条に該当する!

 

『光よ! 我が盾となれ!【神聖障壁(ホーリーウォール)


 優しいハナは虫の命まで心配している様子だ。


「気絶してるだけですよ、今のうちに戻りましょうか」


「うっ、うん」


 ――ハナは私が守ります!

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