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49 浄化 3

 大蛇の腹の跡のついた地面を手がかりに追いかける私とアルバ。途中で木の幹にもたれかかっているアリエスを発見した。左腕からの出血を右手で抑えて苦悶の表情を浮かべていた。


「アリエス、大丈夫か」


「団長すみません、痺れてしまってこのザマです」

 

 ……グラス村で皆を治療した時のあの感覚を思い出せ、自分の中でマナが活性化したあの感覚を。あの時みたいに力を垂れ流すんじゃ無くて必要量だけを目の前の怪我人を治療するために使うんだ!


「アリエスさん、失礼します」


 わたしがアリエスの左腕に向けて手をかざすと、癒しの光が怪我した部分を照らした。すると瞬時に切り傷が塞がり完全に回復した。


「むっ無詠唱⁉︎ ……花巫女様のおかげで助かりました、感謝いたします!」


「傷ついた時はお互い様ですから!」


 癒しの魔法は自分に使えないのだから私も気をつけなきゃ。


  カサカサと葉の揺れる音がした。不意に飛び出てきたのは森の異変を察知して逃げてきた様子のホーンラビットだった。


「ハナ、私の後ろへ」


 私は頷きアルバの後ろに下がった。アルバが剣を抜き、アリエスが弓を取り出している間に、茂みから突如二メートル幅の大蛇の頭が現れ、ホーンラビットを丸呑みした。

 姿を現した大蛇の体は想像以上に大きかった。うねる体のあちこちには矢が刺さって血が出ている。

 驚くべきことに大蛇の尻尾にはトーラスが巻き付かれていた。


「トーラスー!」


 アリエスが悲痛な叫び声をあげる。


「離せ、この糞蛇! ……ぐあっ」


 ミシ、とトーラスの体が軋む音が聞こえる。マズイ、このままだとトーラスが締め殺されてしまう!

 大蛇はトーラスをギチギチ締め付けて獲物が苦しむ様子を楽しんでいるかのように舌を出し入れしていた。私とアリエスが取り乱している中、アルバが落ち着いた声で指示を出した。

 

「アリエス、大蛇の両目を同時に射抜いて下さい」


「相変わらず無茶を言ってくれますね……任せてください!」


 アリエスが矢筒から矢を取り出し、弓を構える。


「ハナ! 距離がありますがここからトーラスの治療は出来ますか?」


「出来る!」


 アリエスを治療する際に部分的に癒しの魔法を使ったことで魔法を使う時のマナの流れが分かった。

 騎士団員がホーンラビットに向けて放った追尾する光の球を思い描く。パアッと私の手のひらに緑色の光の球が出た!


 トストスッ! 大蛇の両目に見事に矢が命中。


「ギャァァァァァ!」


 大蛇がバシンバシンと地面に尻尾を打ち付ける度に、トーラスがなすがまま全身に衝撃を受ける。その衝撃で締め付けが緩んだ隙に右腕の自由を取り戻していた。


 私は光の球をトーラスに向けてポンッと投げた。

 げげっ! 思わぬ方向に飛んでいってしまったけど追尾するイメージしたのが功を奏したのか、ギュンと角度を変えてトーラスの元まで行って弾けた。


「麻痺が治った!」


「トーラス、受け取れ」


 アルバが剣を鞘ごとトーラスに向かって地面を転がすように投げた。


 足元に転がってきた剣に手を伸ばしたトーラスは、鞘から剣を抜き、刃に光を纏わせ大蛇の尻尾に向かって振り下ろす。

 

「うおおおおおお!【月光斬】」


 自ら切り落とした尻尾から解放されるトーラス。切られた尻尾がビチビチと跳ね上がる。


 アルバが胸の前で十字を切る様子を見て、大蛇から離れるトーラス。


『光よ! 不浄なるものに天の裁きを!【神聖南十字星(グランドクロス)】』


 空中に四つの強烈な光を放つ星が現れ、点と点が結びつくと巨大でまばゆい光の十字架となる。十字架の中で悲鳴を上げる大蛇。

 光が消えると同時に大蛇も跡形もなく消え去った。


「団長の剣お返しします」

 

 トーラスはアルバから受け取った剣を返した。

 

「騎士団員はどうした?」


「例の池に全員集合させております」


「それは良い判断だ、私達も戻って合流しよう」


「ハッ」


 そして私達は池まで戻って騎士団員と合流した。アリエスとトーラスが点呼した結果、誰一人欠けることなく揃っていたみたいで良かった。

 

 池まで来たらいよいよ私の出番だ。私達は魔物退治に来たんじゃない、池の浄化のために来たんだ。

 今日の経験で魔法はイメージすることがとても重要ということが分かった。

 アリエスの腕を治した時はロサさんのように手をかざしたら治療できるイメージをした。トーラスの時は追尾する光の球を。なら今度は同時詠唱で見たあの光のカーテンをイメージしてみよう。

 私は手を組んで目を閉じて、金のジョウロから出る水の純白の輝きを思い出す。あれこそマナの光なんだろう。幾重にも重なるマナの光のカーテンをイメージする。


『ハナー! 出来てるドラー!』


 目を開けると、イメージよりはるかに何倍も大きな純白のオーロラが上空に浮かび上がってキラキラ光の粒が降り注がれていった。

 黒い霧は晴れ、墨汁の混ざったように見えていた池はアルバの言ってた通り青く澄んだ色をしていた。

 黒く染まった木や葉っぱはどこにも見られない。

 浄化成功だーっ! 肩の荷が降りたようでホッとした。


「浄化、終わりました!」


「花巫女様、お疲れ様です。失礼ながら魔素含有量をチェックさせていただきますね」

 

 アリエスが小型のケースを開いて注射針のような道具を取り出し池の水を抜き取り、反応を調べている様子だ。


「魔素検知管で調べた結果、正常範囲内です」


 ワァッと騎士団員の歓声が上がった。


 祈ってるときも隣にいてくれたアルバが私の肩にポンと手を置いた。


「ハナ、お疲れ様でした。体調はどうですか?」


「大丈夫だよ、アルバもお疲れ様でした」


 優しい天使スマイルからキリっと団長モードになったアルバは騎士団員を整列させて、帰還命令を下した。


「これより我々は帰還する、総員、警戒を怠るなよ」


「「「「ハッ!」」」」

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