幽霊の証明(11)
「ならいいや。じゃあ、着替えてくるね」
まだ眠たいな。もう一回寝るか、っていう訳にもいかないしな。しょうがなく夢路はベッドから降りる。
待ちに待った夜が来た。今日は部活を早退し、夜に向けて寮で寝溜めまでした。ソラと桐生との約束のオバケ退治の前に、とりあえず食事は済ませておきたいな。
「おっと、アレを忘れるところだった」
夢路は廊下に出る前に放課後手に入れたブツをポケットにしまう。この部屋に戻ってきた時、誰が笑っているんだろうか。
***
「やっぱり来ないね」
昨日と全く同じ位置で、同じような時間に、同じようなことを言う桐生。
「今日はもういいんじゃないですか?」
ソラの震えた声が夢路の耳に届く。
「もう少し待とうぜ。昨日だって諦めようとしたら来たんだから」
「……うん。そうだよね」
桐生の声がか細い。本音はおそらく「怖いからさっさと終わりたい」だろう。
「ちゃんと打ち合わせ通り動いてくれよ」
「打ち合わせって、オーロラ怪人が出たら追いかけずにここにいろってやつ?」
「おう、それだ」
「逆に、行けって言われても私行かないから」
「私も嫌です、先輩」
「はいはい。今日は俺が行くさ」
NOの意思表示は二人とも声量が上がる。さて、昨日はこのくらいに出てきたんだから、そろそろのはずなんだけどな。夢路は時間が流れるのがとてつもなく長く感じる。待ち時間とは大抵こういうものだろう。
「ねえ、リュウは怖くないの?」
「ん? ああ。初めは気味が悪かったけど、今は全くだな」
「それはどうしてですか?」
「自分よりもビビってる奴を見たら、誰だってそうなるさ。ホラー映画にもいるだろ、そういうクッション的な役回りの——」
その時、暗闇の中からアイツが現れた。出たな、いよいよ大詰めだ。夢路は一歩も躊躇うことなく走り出した。そして昨日のように一瞬で消えるオーロラ怪人。姿が消えた以上追跡はできないため、これで捜査は終わりだと、人は思うだろう。
しかし、夢路は走り続ける。もちろん全力疾走だ。
すると、数メートル前方でバタンと何かが倒れる音がした。夢路はチャンスとばかりにその音がしたところへ飛び込む。すると、今まで何もなかったところから、大きな布にくるまった人が出てくる。オバケ退治完了だな。
「リュウ、何が起こったの? 急に大きな音がしたけど」
桐生が慌てて走って来た。
「簡単だよ、これさ」
「黒い糸? それが何なの?」
「俺はここにこの糸でトラップを仕掛けたんだよ。ちょうど、俺がこの伸びた糸を引っ張ると廊下の端から端までピンと張るように」
「なるほど、それでオーロラ怪人がこけたのね」
この仕掛けは、夢路が放課後になってから家庭科室で調達してきたものだ。
***
「でもよく捕まえられましたね」
若干息切れしながらソラが追いついてくる。運動部と文化部の差が再び出る。
「覚えてるか、チビ助。俺はこのオバケ騒動がイタズラなら、二種類の能力がいるって」
「はい。姿を一瞬で表したり消したりするテレポートと、オーロラ怪人の模様を作り出す能力の二つだと」
「そうだ。だが、よく考えればこの現象を一つの能力で作り出すことができる」
ソラと桐生は首を傾げる。
「一つでってあんた分かってるの? 私たち能力者は一人一つの能力しかないし、能力自体の幅も狭い。そんな、一つで二つともなんて絶対無理よ」
「いや、できる。今から説明してやるよ」
夢路は一息吐いてから口を開く。
「まず、お前たちはそもそも重大な勘違いをしている」
「何がですか?」
「姿を見せたり消したりする能力は、別にテレポートじゃなくてもいいってことだ」
「え? そんなことないでしょ。どこでも場所を行き来できるのは、テレポートの専売特許じゃん」
この点についてはソラも同意見である。
「確かにその通りだ。しかし、今回は別に体をどこかに飛ばす必要はない。ただ、透明になれればいいんだ。これなら、テレポートじゃなくても姿を一瞬で表せられる。そして、これは模様を作り出すという点で、オーロラ怪人の外見を作る能力と同じだ」
「つまり、今回の犯人は模様を自由に作り出すことができる能力ってことですか?」
「そういうことだ。なあ、犯人さんよ」
夢路は自分が抑えている、布にくるまった犯人に呼びかける。反応がないが、聞こえているはずだろう。こんな薄い布一枚なのだから。




