幽霊の証明(9)
「俺もマキと同じだった。今朝も言ったけど、今回の作戦は待ちだからな」
「よし。じゃあ早くご飯食べて張り込もうよ」
「おう」
張り込み、か。テレビや小説の中だけのものではないらしいけど、まさか自分がやることになるとはな。貴重な体験には変わりない。幽霊相手になら尚更か。
「何か新しい予知とかはないんですか?」
ソラが夢路に尋ねる。ここで話してもいいが、それで予知が若干でも歪むのはな。
「いいや、特にはないな」
「……そうですか」
夢路とソラはそれで口を互いに閉じた。
***
「うーん、全然来ないね」
「待ち時間ってのは長く感じるものだからな」
廊下に時計がないので何とも言えないが、体感は九時を過ぎた頃か。夢路、桐生、ソラの三人は夕食と入浴を済ませてからこの廊下で待っている訳だが、一向に現れる気配がない。夕食も風呂も終わったこの時間になると、もう人通りはほとんどない。人影が現れたらまず例のものだろう。
「今日はもしかして出ないのかな?」
「いや、出るな」
「即答ですね。どうしてそんなに自信があるんですか?」
「ただの勘だ」
『結果を知っているからな。当たり前だ』
相変わらず夢路は己の予知を内に秘めたままである。
「ひょっとすると、これはイタズラじゃないかもな」
「どうしてそう思うの?」
夢路の仮説に桐生が疑問を投げる。
「イタズラなら、もっと人通りが多い時間帯にするのが普通だ。人に見てもらわないといけないからな。しかし、今はもうその時間帯は過ぎている。これじゃあやったところで大した驚きは生み出せない」
なら、やっぱり今回のはイタズラではなく幽霊。そういう話になるのではないかとソラは思ったが、あえて黙っておく。自分自身からは口にしたくない。
『どちらにしてもさっさと出ろよ。こっちはいつでもいいぞ』
夢路は今か今かと待ち構える。
「ねえ、これ何時まで続ける?」
「そうだな、まあ後三十分くらいで終わろうぜ」
「オッケー。私何か今日はダメな気がしてき——」
桐生が弱音を吐いたその時、例のモノがようやく現れた。やはりあのどす黒い色に気圧されてしまう。桐生も一歩後ろに引いたように見えたが、一気に走り出した。夢の通りである。
そして、桐生が走り出した直後跡形もなく突然消えた。桐生は呆然と立ち尽くす。
「消えた……」
「どうだ、アレはお前には何に見える?」
「オバケ、かな。正直見た時鳥肌が立った。ホントにどす黒いね」
よく見ると桐生の足が震えている。よくこんな状態で走り出せたな。肉体的にも精神的にも。
「チビ助、お前はどう思った?」
「……私の今までの歴史では見たことなかったです」
「まあ、そりゃそうだ。さて、今日は引き上げるか」
はあー、結局見たところで何にもだったな。立ちっぱなしで疲れたし、今日はもう寝るか。
そう思って夢路が自室に向かおうとした時、服の裾を掴まれた。
「なんだ、チビ助。何かまだやるのか?」
「……トイレ行きたいのでついてきてください」
「お前の今朝の元気はどこ行ったんだよ」
仕方なく夢路と桐生はトイレまで付き添い、ソラの部屋まで送ってやった。
「ソラちゃんも本気で怖がっちゃうとは、厄介な事になったね」
二年寮の帰路の途中。
「幽霊なんて信じないって奴程、実際に遭うとビビりなんだな。まあ、俺も人のこと言えねえか」
「私もそうかも。あんなのいるんだね、世の中に」
静かな暗闇を一歩ずつ二人は歩みを進める。
『オーロラ怪人 イタズラ 微能力 二種類 現れる 消える 一瞬 オカルト……オーロラカイジンイタズラビノウリョクニシュルイアラワレルキエルイッシュンオカルト……モヨウカクレミノジュツオカルトブ……模様 隠れ身の術 オカルト部』




