幽霊の証明(7)
「いいや、全然。ちなみに今日の夢は、自販機でジュースを買ったのにお釣りが出なかったってやつだった」
「しょぼいですね、今日のは」
「いつもこれぐらいであって欲しいぜ」
刺激がなさ過ぎるのもいけないが、あり過ぎるのも問題である。
「今日も出ますかね? オーロラ怪人」
「さあな。こればっかりは何とも言えねえよ。てか、やっぱり名前それでいくんだな」
「私は初めからこれで異論ありませんでしたから。文句言っているのは先輩だけです。嫌なら何か提案したらどうですか?」
「提案ねえ……思いつかねえから、オーロラ怪人でいいや」
「なら初めから文句言わなきゃいいのに」
「できない奴、やらない奴程文句を言いたくなるんだよ。お前も経験あるだろ?」
言われてみれば、ソラにもそんな節があるかもしれない。客観視が出来る人間はそう多くないということだろう。
「それは置いといて、もう朝ごはんの時間ですよ」
「ああ、そうだったな。さっさと着替えるか」
***
「よう、夢路。おチビちゃんも一緒か。聞いたか? 例の幽霊騒動」
食堂の朝の活気のある音の中に、名前を呼んでいる声が聞こえてくる。
「山本か。昨日ちょうど一年女子寮の食堂に偶然居合わせたからな、大体は聞いてる」
「とんでもない豪運だな。で、お前はどう思ってる?」
「どう、て言われてもな。分かんねえよ、そんなの」
「お前なら、チャチャっと幽霊が本物かどうかくらい見分けられるだろ」
夢路の力を信用しているのか、幽霊を軽んじているのか。ソラには判断がつかない。
「俺だって別に直接見た訳じゃないしな」
「……夢の中でバッチリ見てたのでは?」
「おチビ、今何か言ったか?」
「いいえ、何も」
「そうか。まあ、直接見てないんじゃしょうがないか。また何か思い付いたら聞かせてくれよな」
そう言って山本は去っていった。
「どうして山本さんに嘘ついたんですか? 先輩一応は幽霊見てるじゃないですか」
ソラは夢路の意図を探ろうとする。
「それはお前、今回の俺達の作戦は待ちだからな。いくら知り合いとはいえ、あんまり情報を話すのはマズイ。もし、犯人が俺達が捜査をしているということに感づいたら、チャンスは二度と来ないってことだ」
思っていたよりも考えられた上での行動に、ソラは感心する。
「だから、必要最低限のことしか話さなかったってことですか」
「そうだ。情報漏れをしないようにするために」
「もしかして、昨日幽霊見た子達に話聞かなかったのも?」
昨日の疑問点もここで氷解する。
「そういうことだ」
「ちゃんと考えてるんですね」
「当たり前だ。俺は一度やるって言ったら全力でやるタイプだ」
「でも、山本さんにすら教えないのはちょっと用心し過ぎでは? 話しても口止めすればいいじゃないですか」
一方でここまでの徹底ぶりに少し疑問を感じる。
「アイツは口が軽いからな。ついうっかりってのがあると怖い。そこそこ有名人だしな」
「なるほど。確かに山本さんは口軽いってか、隠し事でも交渉とかのカードにしそうですね」
「そういうことだ。商売関連になると特に」
「あ、そろそろ行かないと! 早くしないと授業に遅れちゃいますよ」
「もうそんな時間か」
夢路は食器をカウンターに返しながら考える。ここまで用心しているのだから、相手に遅れをとることはないだろう。相手が見えないからといって、少し警戒し過ぎか? いや、用心に越したことはないはずだ。むしろ、これでも足りないくらいかもしれない。相手が人智を超える未知の生命体であるのなら。
***
朝の気だるい雰囲気が広がる校庭で、ソラに意気揚々と声をかけてくる奴が一人。
「今際さん! 聞いたかい?」
「あー、オカルト部の三河くんか。何を?」
いきなりの問いかけにソラは困惑する。
「知らないのかい? 出たんだよ、昨日オバケが」
「ああ、その話ね」
ついさっきまであがっていた話題である。
「ということはあの約束、守ってくれるよね?」
「あの約束?」
はて、何のことだろうか。彼と約束なんてしたっけな? ソラは昨日の記憶を辿ろうとする。




