幽霊の証明(4)
「一応オカルトについて研究するってのは決めてるんだけどね。調査とか色々して」
「その研究対象ってのは具体的にはどういうものなんです?」
「それは……例えば、この学園の七不思議とか」
「七不思議ですか? うちにそんなのあるんですか? 聞いたことないな」
「た、例えばだよ。それ以外にも色々……」
なるほど、ここが弱点のようだ。彼自身もまだ何をするか具体的に決めてないらしい。達成したいことよりも、とりあえず部活を作るのが先なんだろう。
「それに、私みたいに幽霊とかそういうの信じない人も多いですしね。見たことも感じたこともないと尚更で」
「……じゃあ、もし幽霊とかそういうオカルトのようなものを体験したら、今際さんとか他の人も入部してくれるのかな?」
「そうですね。それだったら私も参加してみたいです」
『まあ、いないだろうけどそんなの』
ソラは心の中で呟く。とりあえずこれでひと段落か。それではそろそろ部室に向かおう。
「では、私はこれで。そういえばお名前伺ってなかったですね」
「僕は四組の三河 一馬。よろしく」
「はい、よろしくお願いします。じゃあ次は幽霊見たときに」
「うん。そうだね」
そんな次は来ないかもしれないと思いつつも、ソラは三河に今生の別を告げ、旧校舎に歩いていく。
しかし部活を作る、か。思えば四月、あの時興奮と勢いに任せて探偵部をあれよあれよと立ち上げたが、今振り返るといくつも都合の良い偶然が重なっていた。いや、夢路が事前に仕込んでいたというのが正確だろうか。
いずれにせよ、一番最初に声を上げたのはソラであるのは間違いないが、その後の段取りは夢路によるものが大きい。以前の部長会議なども助けてもらったし、集客面においても夢路のネームバリューは偉大である。何から何まで助けてもらっているソラだが、果たして自分は夢路に何か返せているのだろうか?
黄昏時に黄昏ていると何だか眠たくなってきた。ソラは勢いよく階段を駆け上がり、眠気を吹き飛ばそうとする。そして、部室に到着すると寝息を立てている男が一人。
『でもいつも寝てるし、この人そんな悩みとかなさそうだしな』
ソラは夢路をじっと見つめる。
***
暗い。これは寮の廊下か? 女子と喋りながら歩いているな。ちょくちょく顔が映る。この手のやつは大体話に気を取られて体をぶつけたり、こけたりするやつだな。よくある夢だ、そう思っていた俺だったが、次の瞬間、驚くものが目に飛び込んでくる。
何だアレは? 人くらいの大きさで、オーロラをずっと暗くした禍々しいものを纏ったような異様な物体が突然現れた。夢の主とその友達も驚いて、足を止める。その物体も同じように、現れた位置から一歩も動かない。しばらくお互いに動けない膠着状態が続いた。そしてようやくその物体が動いた、と思ったその瞬間、謎の物体は目の前から一瞬で消えてしまった。
目が覚めて、頭を整理しようとする。どういうことだ? この目で直接見た訳ではないが、夢の主を通して見た光景に動揺を隠せない。いきなり現れて、いきなり消える。どす黒い色だった。まるで幽霊のようだ。いや、幽霊というよりは得体の知れない化け物といったところか。一体アレは何なんだ?
「先輩、どうしたんですか? いきなり飛び起きたと思ったら黙り込んで。もうそろそろ部室閉めますよ」
窓の外は日が落ちて辺りが暗くなる頃である。
「チビ助、お前さんは幽霊とか信じるクチか?」
「いいえ、全然。だって見たことないですから。私も十年以上生きていて、もし本当にいるんだったら確率的に一回くらいは見てるはずですし」
「そうか、そうだよなじゃあ、さっきのアレは……」
夢路は再び口を閉じる。
「変な夢でも見たんですか?」
「ああ、実は——」
「あー、疲れたー。探偵部もそろそろ終わりにしたら?」
勢いよく扉が開くと、桐生が立っていた。彼女は部活中に夏の日差しにたっぷり当てられ、すっかり疲弊している様子である。
「今起きてちょうど帰るところだ。チビ助、俺たちも帰るぞ」
「いいですけど、話の続きは?」
「なになに? また面白い夢でも見た?」
「そうだなあ。マキ、お前ってさ幽霊とか信じてる?」
「ううん。何か関係あるの?」
「まあな。とりあえず帰りながら話すさ」
そう言って夢路とソラは支度をして部室を閉める。




