第9話 幽霊の証明(1)
七月十二日。期末テストも終わり、授業も大したことをしない消化試合のような内容をするだけの残り少ない一学期。いよいよ夏休みまで秒読みとなり、生徒は皆浮ついた雰囲気になっていたのだが、今日ばかりは少し喜べない事情がある。そう、今日は運命のテスト返しが行われる。
もし、このテストで赤点なんて取ってしまったら、教師達からの理不尽なまでの補習地獄によって、夏休みなど吹き飛んでしまうだろう。どの生徒も何とか赤点だけは免れたいと願っている。ソラもまたその一人だ。
今日の授業は一限目が現代文。この時間に合わせて古文も返ってくる。さらに二限三限と数学、化学。四限目は英語。五限目生物。最後に世界史、倫理へと続いていく。
さて、この中にいくつ赤点があり、夏休みの補習があるのか。それは今は神と教師しか知らないことだろう。
***
「ソラ、テストどうだった?」
同じクラスの内田が元気そうにこちらに向かってくる。見たところ赤点はなさそうな面持ちである。
「見る?」
「うん、どれどれ。……59、48、42、53、47、44、88、51。ちゃんと全教科平均点は超えてるね。中々やるじゃん」
「まあ、全部足したらちょうど真ん中くらいだろうけどね」
内田はさらにテストを覗き込む。
「しかも現代文の88って……。実は前世は文豪だったり?」
「そんな大した人間じゃないよ。それよりきーちゃんはどうだったの?」
「私は真面目な生徒だからね。赤点はなかった。けど、化学と英語が平均下回っちゃった」
「まあ、その二つは難しかったからね。平均自体も他より低いし」
「でも赤点じゃないなら、補習はないだろうから一安心」
親指を立てる内田。
「なら良かった。補習だと夏休みも学校通わないといけないもんね」
何とか補習を避けたソラと内田は、ひとまず安堵を覚えた。少なくとも勉強漬けの夏休みの可能性はなくなったからだ。
「おいっすー、火野ちゃん水戸ちゃん。二人はテストどうだった?」
あら、この二人は賢い組だから聞いてもあんまり意味ないのでは。ソラは心の中で呟く。
「私ですか? まあ、この前と同じくらいですかね」
「あたしも大体そんくらい」
「前と同じか。……水戸ちゃんって、中間の順位たしか学年二位とか三位とかじゃなかったっけ?」
「火野ちゃんは五位だったよ」
天上人の会話に呆気にとられ、魂が抜けたようになる内田。だから聞いてもしょうがないのに。
「はあー、私達とは住んでる世界が違うな。……そうだ。ミナミ、テストどうだった?」
内田がミナミの方へ近づいていく。彼女は部活三昧の日々だから、勉強する時間なんてほとんど確保できてないだろう。そのためそこまで順位は高くないはずだ。でも、性格的にみて赤点取るようなタイプじゃないから、補習は免れているはずである。
「おーい、ミナミ? 聞こえてないの。テストはどうだっ——」
ミナミの席まで寄っていった内田が、言葉を不自然に切る。一体何があったんだ? ソラもミナミの席に行ってみる。すると、ミナミの顔が死んでいる。顔の血の気も引いて、やや青くなっている。まさかと思うが……。
「ミナミ、テスト見るよ」
そう言って半ば強引にミナミの机からテストを取り出し、点数を確認する。すると、
「あっちゃー、これは中々ヘビーだね」
そこには赤点が四つもあるテストがソラと内田の目の前にあった。四つというと半分が赤点なのだ。これはいくらなんでも多すぎるだろう。
「ねえミナミ、これはどうしちゃったの? 中間は普通にいい感じの点数だったじゃん。何で今回はここまでひどいの?」
「……実は今回はテスト前も陸上部の練習があって、テスト勉強を始められたのが結局テスト三日前くらいで。その三日は提出物やるので精一杯だったの」
部活のせいで勉強ができなかった、なんかよくある高校生の悩みそのものである。実際文武両道なんてほんの一握りの奴しかできないだろうに、無茶な目標持たされて……。そういえば昔「勉強と部活は竹馬だ」なんて聞いたが、本当かどうか怪しいものだ。
「まあ、英語と化学は今回難しかったからね。赤点でも、もしかしたら補習は回避できるかもしれないよ。世界史なんて暗記教科は、補習なんてやっても所詮は本人が覚えるかどうかだから、これも補習なさそうだし」




