表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中途半端は大変です!  作者: 平下駄
86/288

密室の消失(12)

「なるほど。で、倉庫の中はどうなってた?」

「言った通り特別変わったものは置いてありませんでしたし、機械用オイルだとかの引火しそうなものはありませんでした。ただ、ダンボールは一応ありました。中に何か入っていましたけど」

「うん。じゃあ窓は?」

「そこまで覚えていません」

 キッパリ言い切る水戸。


「ほー、それは妙だなあ。普通絶対気づくはずなんだけどなあ」

「絶対なんて言えないでしょ別に。ていうか倉庫の話はもういいでしょう」

「いや、全然良くないんだよ、これが」

 夢路は軽く息を吸い込む。ここからが正念場だ。


「用務員の善さんの話だと倉庫には窓がないらしい」

「私は荷物を置いてすぐ帰ってきましたから、たまたま気づかなかっただけです」

「チビ助よ、想像してみてくれ。昼間の太陽が眩しい日差しの中、窓のない倉庫の中はどうなってると思う?」

 夢路はソラの方を振り向く。


「窓がないってことは光が入ってこないってことだから、真っ暗なんじゃないですか?」

「そう、その通りだ。そして、いくら一瞬だけ倉庫に立ち入ったのであっても、電気をつけなければ荷物を置くなんてできない。倉庫の中身を認識しているのなら尚更だ。窓がないのなら設計上、必ず電気は付いているはずだが、お前は使わなかったのか?」

 夢路は真っ直ぐ水戸を見つめる。


「それは……ああ、そういえば付けましたね、電気。忘れてました」

『ここでもシラを切るのか。じゃあ続けるか』

 夢路は再び口を開く。


「電気を付けたのなら、窓があったのか覚えてないなんてならないだろ。どうして嘘をつく? お前はあの倉庫に本当に行ったんだろうな?」

「もちろん、行きましたよ。変な言いがかりはやめてください。ただの記憶違いです。話をさっさと進めてください!」

 水戸の語調が強くなる。


「俺はよ、一つ疑問に思ってたことがあるんだ。なぜお前は倉庫の話をしたがらない? 部屋に行った時も今も、お前は倉庫についてほとんど話そうとしない。お前は倉庫に行った、これは俺も事実だと思う。じゃないと、お前は業者から届いたさらし粉をどこに隠した、という話になる。だから、これはいい」

 夢路は一つ息をつく。


「ならいいじゃないですかそれで」

「しかし、お前は倉庫の話を嘘をついてまでさっさと切り上げようとした。これが俺には納得できない。どうしてだ?」

「だから私は嘘なんて——」


「答えは簡単だ。お前は自分が倉庫に行ったことで、何か人には言いたくないやましいことがあるからだ」

「……」

 水戸が黙ったまま、少しうつむき加減になる。


「なんなんですか? そのやましいことってのは」

 水戸の代わりのように、今度は火野が口を開く。

「金髪ちゃん、お前は化学は得意か?」

「まあ、人並みには」


「化学反応の中に発熱反応と呼ばれる反応があるだろ。あれは正しく使えばカイロや駅弁なんかで温めるのにも使われる」

「それくらいは分かりますけど、正しくってことは逆に?」


「悪く使えば、その反応熱で火事なんか起こすこともできる。この化学反応は、カイロだったら空気に、駅弁なら水に触れることで起きる。そして、プールのさらし粉は、駅弁で使われる発熱剤と同じように水によって熱を発生させる」

「……」


 火野は水戸の方を振り返り、同じように口を閉ざしてしまう。ソラは冷静にその場の状況を観察する。


「水戸、お前の能力『ウォーター』なら壁なんか関係なく、密室の中にでも水をかけるのは可能だ。そして最後にプール倉庫に入ったお前なら、さらし粉の周りに燃えやすいものを置いて、不完全な発火装置を作ることができる。これなら、もしプール倉庫が開けられることがあっても言い訳が作れる。これが俺の推理だ。反論はあるか?」

 水戸はゆっくりと夜空を見上げ、大きく深呼吸をしてから、夢路の方をまっすぐ見る。


「……ありません、反論なんて。夢路先輩の言う通りです。私が今回の事件の犯人です」

「やけに素直だな。もうちょっと反抗してくると思ってた」

「それは、今回の事件は単に私が魔が差しただけだからですよ。特に意味なんてない。裕福な家庭の子供が万引きするのと同じです」


『魔が差したねえ。優等生の真面目ちゃんの方が案外闇が深いのかもな』

 夢路は内心で水戸の深淵を覗いたような気がした。


「火野さん、あなたには悪いことをしたわ。いきなり犯人扱いして罪をなすりつけようとして。ごめんなさい。別に私、あなたのこと嫌いじゃないのに、いつも強く当たってしまうのも……」

「気にすんな。あたしも今回のことでお前をとやかく言うつもりはない。ただし、今後絶対に放火はしないこと。これだけは誓え」

「火野さん……」


 水戸の目から涙が流れ落ちる。火野の深い心に触れて何か感じたのだろう。犬猿の仲の人間を、こうも簡単に改心させるなんて。まるで九十年代のヤンキー漫画の主人公だ。ソラは自然と感心する。

 涙を拭き終わると、水戸はさっきのように凛としている。いや、先程よりも力強い。


「これからどうするんですか? 私はもちろん警察行きでしょうけど」

「おいおい、別に俺はそんなこと言ってないだろ。俺は単にお前に犯人を教えてやっただけだ。警察には、そうだな……さらし粉が何かの拍子で濡れてたまたま起こった事故だった、くらいは言っておくさ。話は済んだし、行くぞ二人とも」

 三人は黙ってその場を立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ