密室の消失(10)
「燃える前ですか。別にこれと言って変わったところはなかったですよ」
「具体的に何があったか言えるか? 例えば、火がつきやすいダンボールとか機械用オイルとか」
「ダンボールはあったような気がしますけど、燃えやすいものもこれくらいだったと。昨夜の家事について調査してるんですね」
出来る限り火事にまつわるキーワードを収集しようとする。
「その通り。ところでよ、お前さん本当に業者からの荷物を持ってただけなのか?」
「どういうことです?」
「いやよ、たかが倉庫行ってもの置いてくるだけで三十分はかかり過ぎだなあと思って」
「それは、用務員さんがどこにいるのか分からなくて探すのに手間取ったからです」
夢路の揺さぶりに、水戸は少し動揺したかのように見える。
「そうか……色々助かったよ。邪魔したな」
「これくらい構いませんよ。捜査頑張ってくださいね」
「おっと、そういやよ。もう一つだけ聞かしてくれ。倉庫に窓ってあったか?」
「え、窓? うーん、あったような、なかったような」
「そうかそうか。邪魔したな」
まるで相棒シリーズの杉◯ 右京のような、立ち去り際の二段構えの揺さぶりをかけてから夢路とソラは水戸の部屋を出た。
***
「ただいまー」
ソラは扉を開けながら言う。
「あんたの部屋じゃないでしょ。ってかノックくらいしてから入ってきなよ」
「はーい。次から気をつけまーす」
夢路もその後に続いて火野の部屋に入室する。
「で、どうだったの? 水戸からちゃんと話聞けた?」
「一応は。あまり役に立つような情報はなかったかな」
「悲しいことにな。チビ助も俺も含めて嫌われてるみたいだ」
「今際はともかく、何で夢路さんも?」
「色々あるのさ、上級生にはな」
ソラはこの学園の勢力図について思い出す。委員長というポジションから水戸はひょっとすると生徒会派閥の人間なのかもしれない。
「とりあえず情報収集はひと段落ついたと思いますけど、先輩犯人分かりました?」
「情報ねえ。大したもんはない気がするけどな。出火元となったプール倉庫は、出入り口は鍵のついた扉が一つだけで、火事の際は密室だった。火事の前に最後に入ったとされる水戸は、業者から届いた新品のさらし粉を置きに入った。その際不審なものは特になかったそうだ」
夢路が簡単に今までを整理する。
「うーん、これだけじゃ犯人は分かりませんね。どうします? 次は誰に話を聞きに?」
「情報はそりゃ欲しいけど、もう聞く奴が思い浮かばねーよ」
「じゃあこれからは?」
「うーん……」
行く先を悩む夢路はふと時計に目をやる。もうすぐ十二時になりそうだ。
「よし、食堂行くぞ。まずは腹ごしらえだ」
***
「ふうー、食った食った。じゃあ行くか」
食事を済ませて夢路は立ち上がる。
「じゃあってどこにですか?」
「昼寝」
「はい?」
ソラは夢路の発言を聞き返す。
「ここで一旦休憩しようってことだ。現状かなり煮詰まってるし、時間を置くことで何か新しいことを思い付くかもしれないしよ」
「なるほど、考えを整理するってことですね。確かにそれは必要かもしれません。では、一時間くらいしたら先輩の部屋にお邪魔させていただきます」
「了解。じゃあ二人ともまた」
こうして三人は一時解散した。
***
「思っていたよりもとっつきやすい人だな」
夢路と別れた後、二人はソラの部屋に移動した。火野の部屋は一人部屋で手狭なことと、同室のミナミが不在であるためである。
「先輩って火野ちゃんにはそんな風に見えてたんだ。あんな感じで基本は睡眠に取り憑かれてるね」
「何となく怖い人なのかなって。結構その手の噂で有名だし。弓道部の先輩から少し聞いた」
おそらくは例の『一年戦争』の話だろうが、ソラはこの件に関しては夢路の口から話してくれるのを待つことにした。
『先輩、今回はちゃんと事件解決出来るのかな?』




