密室の消失(8)
「ちゃんと勉強の方はしてるか?」
「昨日も宿題やってはみたよ」
夢路がよく授業で寝ているからか、何かにつけて俺に勉強させようとしてくる人物でもある。その点で面倒くさい教師だ。
「それよりも、今日来たのは一つ聞きたいことがあってよ。昨日火事があったプール倉庫あるだろ? あそこに最近入った先生っていないか?」
「ああ、あの倉庫か。火事、結構すごかったらしいな。今は完全に燃え尽きて建物ごとないんだろ」
「そうそう。でよ、誰かいないのかよ? 最近入った奴」
「いやー、さっきまで警察とか消防の人がいて大変だったんだよ。聞いてくれよ。まずさ、朝早くいきなり学校から連絡が来てよー。それで——」
「先生、最近プール倉庫に入った人を知りませんか?」
ソラが須藤の話に割って入る。
「知ってるぞ。用務員の善さんが警察の人にそんな話をしているのを聞いた」
「ありがとうございます。では私たちはこれで」
「しつれーしました」
心のこもっていない挨拶をして夢路達は職員室を後にした。
***
「さっきのよ、あれは何なんだ? 何で俺の質問には答えないくせに、お前の質問にはあっさり答えたんだ? どう考えてもあれはわざとだろ」
夢路が愚痴をこぼす。
「簡単な話じゃないですか? 先輩は生徒、須藤先生は教師。生徒と教師じゃどっちが立場が上です?」
「……教師だな」
「その顔の様子だと、分かったみたいですね」
「要は俺が敬語じゃなかったってことだろ。ったく須藤のヤロー、やっぱりめんどくせーな」
あんな奴が先生なのも、俺が化学が嫌いで眠っちまう原因の一つかもな。心の中でまた愚痴を言う。
「じゃあ、用務員室行こう。善さんっていつも花壇に水やってるあの人だよな?」
火野が目的地を提案する。
「うん、そうだね。そういえば先輩、どうしてストレートに倉庫に窓があるかどうかって聞かなかったんですか?」
夢路らしくない遠回りなコミュニケーションである。
「確かにそっちの方が早いけどよ、後々楽になるんだよこれが」
「まあ、別に理由があるならいいですけど」
夢路の意図は読めないが、ソラはひとまず飲み込んだ。
***
夢路は用務員室の前に立ち、扉に手をかけようとしたが、やっぱりやめた。
「チビ助、お前が先に入ってくれ」
「いいですけど、どうしてです?」
「さっきみたいなことになると面倒だから」
「ああ、了解です。
失礼します、とソラが先陣を切ると中にはおじいさんが一人お茶を飲みながら座っていた。いつも花壇でよく見るあの人だ。
「どうしたんだい? ここに生徒さんがやってくるなんて珍しい」
「あの、善さんですよね。実はプール倉庫のことで聞きたいことがあるんですよ」
「プール倉庫ねえ。警察みたいだね、お嬢ちゃん達。実際警察にも聞かれたけどね。ワシが答えられることなら何でも聞いておくれ」
「じゃあ早速何ですけど、倉庫に窓ってありましたか?」
「窓か。窓はなかったはずじゃぞい。中に入れるのは火事の時に鍵がかかっていたあのドアだけじゃ」
「そうですか。ありがとうございます。じゃあ私達は——」
「善さんは最近倉庫に入ったと聞いたんですが、それはいつですか?」
「タイミングが良いのか悪いのか分からんが、昨日の午後なんじゃ。と言っても、実際には入っとらんがのう」
「入っていない? その話、詳しく聞かせてくれませんか?」
ここでソラは夢路の意図に気付く。昨日の現場が、燃える前には一体中に何があり、どんな風だったのか、それも一緒に聞けると思ったのでわざわざ最近入った人を探したのだ。しかも昨日入っていたとは。これはかなり有力な情報を得られるはずだ。
「昨日業者から、これから体育の水泳で使うプールの消毒用のさらし粉が届いたんじゃ。ところがこれが重くって重くって。どうやって運ぼうかと考えていた時に、たまたま生徒さんが一人通りかかったんじゃ。そしたらその生徒さんが「私が運びますから」と言ってくれて。ワシは女の子に頼むのは少し気が引けたんじゃが、結局ワシは大助かりじゃ」




