密室の消失(5)
「決まりですね。火野さん、あなたが犯人なんでしょ?」
ソラは大きく息をつき、自分の頭の中で理論の筋道を構築する。
「中々面白い推理ですね水戸さん。ただ水を差すようで悪いが、一つ質問させてください。動機は何だと思ってるんですか? 火野ちゃんがプール倉庫を燃やした理由は?」
「それは……むしゃくしゃでもしてたんじゃないんですか? 人間色々悩むものですから」
「ずいぶん曖昧な答えですね。そもそもさっきの推理についてもいくつか疑問があります。どうして犯人はわざわざ密室のプール倉庫の中に火をつけたんでしょうか?」
「それは、犯人が不可能犯罪に見せかけるためだと……」
「まあそれが妥当だと思います。けど、この理由じゃ火野ちゃんは犯人じゃないでしょう。鍵が閉まっていようと開いていようと関係なく火をつけられるんですから。いや、むしろ容疑者が絞られて不利なだけともとれます」
ソラの話を聞き終わると、水戸は黙って椅子に座る。外野はそれと同時にまたざわつき始めた。くだらない推理で人をけなしておいて謝罪もなしとは、何て自分勝手な奴だろう。
ソラと火野はカウンターから朝食をもらって適当に空いている席に座った。周りからの視線はさっきよりは減っているみたいだが、目は口ほどに物を言うなんてよく言ったものである。ソラは身体中に軽くトゲを刺されているような感覚がする。もっとも、当の本人である火野はこれとは比べ物にならない程感じているのかもしれない。
そう思って横を見ると、平然と箸を口に運んでいる。
『火野ちゃん、めちゃくちゃメンタル強いんだ』
ソラも見習って食べようとした時、生徒が一人近づいてきた。
「おいっすー、朝からずいぶん元気だねー」
声をかけてきたのは、同じクラスの内田 きらら。ソラとは四月でまだ座席が出席番号だった時、席の前後というのがきっかけで仲良くなった人物である。
「しっかし、ソラが委員長をあんな風に真っ直ぐ論破するなんて、意外とやるじゃん」
内田は何故か誇らしげだ。
「きーちゃんは大袈裟だね。別にそんなつもりはなかったよ。ただ、間違っていると思ったことを指摘しただけ」
「立派になっちゃって。それで、聞きたいんだけどソラは一体誰が犯人だと思ってるの?」
「全く見当ついてません。でも今回は警察だって動いているだろうし、犯人探しはその手のプロに頼むのが一番なんじゃない?」
そもそもソラはさっき事件のことについて耳にしたのだ。こんな時、情報通のミナミがいればと思ってしまう。
「そうだけどさ、あれだけ皆の前で語ったんだから独自で犯人探しとかしないの? 火野への疑いだって完全に払拭されたわけじゃないんだし、探偵部の見せ所だよ!」
内田の言う通り、確かに火野への疑いを完全に払拭する方法は犯人を見つけるしかない。しかし、火野自身あまりさっきのことを気にしてないようにも見えるし、そんなことやったら逆に刺激してしまうのではないのだろうか。
「火野ちゃんはどう思う? 犯人探し、した方がいいかな?」
火野は箸を止め、数秒考えてから口を開いた。
「した方がいいと思う。もしさっき言ってたみたいに、これが不可能犯罪なら犯人は平気で次の犯行を行なってくると思う。だから、次の犯行を防ぐためにも犯人探しは絶対にするべきだね」
「なるほど……」
確かにソラは重要なことを見落としていたのかもしれない。火野が犯人扱いされている、ということに囚われていた。もし、密室の場所を証拠も残さず自由に燃やせるとしたら、この犯人は放っておくとかなり危険だ。
「きーちゃん、水戸さんがさっき話してた事件の内容って間違いない?」
「うん。私も野次馬で現場に行って、その後警察から説明を受けたからね」
「火事が起こったのは何時頃?」
「多分一時くらいって警察の人は言ってた」
「一時か。発見されたのは?」
「一時半くらい。私が騒ぎで目が覚めたのがそれくらいだった」
「第一発見者は?」
「外からの通報らしいよ。ほら、ウチは山ん中に建ってるでしょ。下の街から煙が上がってるのが偶然見えたらしい」
「学園内からじゃないのか……」
「よし、ソラもやる気出たみたいだね。私は推理とかそういうの手伝えないからあれだけど、頑張ってね名探偵」
そう言って内田は二人の元を去っていった。このおかげでソラに火が付いたのは間違いない。




