密室の消失(3)
「なるほど、確かにそれは俺の夢だな」
夕食を口に運びながら夢路が答える。
「やっぱりそうなんですね。話に聞いていた以上に唐突で一度見ただけじゃ何の情報かさっぱりでした」
「初めてならそんなもんだ。ちゃんとプールに向かうって分かっただけ上出来さ」
「先輩の能力って、思っていたよりも不便なんですね。一人称視点でいきなりスタートするから見逃した情報もたくさんありそうですし」
ソラは小さくため息を吐く。
「気にするな、それをしっかり分析するのが俺の仕事だ。というか、どうしてお前が俺の夢を?」
夢路は当たり前の前提になっている部分に疑問を投げる。
「確かに、言われてみれば私どうして予知夢を?」
「俺が聞きたい。風邪みたいに移るものでもないだろうしな」
能力の伝染、流石にそんな話は聞いたことがない。
「もしかして私も先輩と同じ能力が目覚めた、とか?」
ソラは興奮気味で早口で答える。
「無いとは言い切れないが、いくら何でも出来過ぎた話だ。同じ能力を持った二人が先輩後輩関係で同じ部活に所属している確率。正確な数値は分からないが、決して高くはないだろう」
基本的に能力は、系統などである程度大きく分類できるとはいえ、細かいところは個人差があるものである。今回の場合予知に関する能力者は大勢いるだろうが、夢がトリガーかつ無差別に他人の不幸を予知する力となると、自然と夢路の一点物に絞られてしまう。まだ見ぬソラの能力の可能性は確かに否定できないが、だからといって考慮されるほどの数値でもないのも事実だ。
「うーん、じゃあ何なんですかね。私が先輩の夢を勝手に妄想で作り上げたとか?」
「洗脳能力ってか? ずいぶんと物騒な力だな。それに俺はお前より夢の詳細答えられるから、その線は薄いだろうよ」
夢路が笑いながら答える。
「じゃあ、先輩はどんなのだと思います?」
「単純に、他人の考えていることとリンクするとかだろ。他人の思考を盗聴するというと少し大袈裟かもしれないがな」
ソラは少し考える。確かにそれならば、今日の出来事については説明がつく。しかし、そこではない部分に疑問が向けられる。
「だとしたら、どうして今まで発動しなかったんですかね? 人気のない山奥にひっそりと一人で暮らしてたというのならともかく、こうして人がたくさん集まる学校という空間に通っているのに」
何なら、全寮制だから衣食住ですら大量の人と共にしているのに。
「おそらく、細かい条件が複数あるんだろうな。対象と同じ行動をとっていなければならない、ある程度面識がなければならない、距離が近過ぎても遠過ぎてもいけない。考えるといくらでも出てくるが、こういうのをいくつかクリアして初めて能力が発動する可能性だ」
なるほど、それならば納得がいく。
「いわば、何重にも掛かっていたロックが今夜はたまたま外れて先輩の夢を傍受した、というわけですね」
「もう一つの可能性は、お前さん自身が成長したって可能性だ」
「成長ですか?」
生憎身長や体重にさほど変化は起こっていない。
「能力ってのは実は向上していくものなんだよ。少しずつだったり段階的だったりという個人差はあるけど」
「先輩も成長を?」
「俺の場合だと、昔は映像が白黒だったな。後、音もなかった時期もある」
ソラは先程の夢の映像を思い出す。確かに言われてみればカラーの画面に音が乗っていた。これは昔は白黒でサイレントだったというのなら、今以上に夢の解読は困難であったのだろう。
「つまり、お前さんもめでたく能力者の仲間入りってわけだ」
夢路の発言を聞いて、ソラは単純にうれしい気持ちと、己の力の全貌すら把握しきれていない不安の二つの感情に悩まされていることに気がつく。自分の自信のなさの一因が解決されたはずなのに、素直には喜べないでいる。
「まあ、自分の唯一の力だ。誰が教えてくれるわけでもないんだし、付き合い方はゆっくり冷静に覚えていくんだな」
夢路は空になったトレイを持ち上げ、席を立つ。こうして遅めの夕食が終了した。




