密室の消失(2)
そんなエピソードもあって、どちらかというとソラは火野の肩を持つというわけである。
「今度は一体何で怒られたの?」
実はこの二人のケンカは度々起こっている。ふっかけているのはいつも水戸の方みたいだ。
「さあ? アタシにもよくわかんない」
「火野ちゃんは大人だなあ。身に覚えもない説教を言い返さず聞いてるなんて」
「まあ、別にあっちも悪気があって言ってるわけじゃなさそうだし。黙ってるだけならまだね」
ここまで達観出来る同い年が他にどれだけいるだろうか。ソラは火野への評価をさらに上げた。
「そういえばあんた何で一階にいるの?」
「ちょっとこれから部活の先輩のところに用事で」
「ああ、探偵部か。頑張ってるんだな、土曜日だってのに」
「そんなことないよ。テニス部なんか泊まりがけで大会行ってるし」
そのため相部屋のミナミは不在である。
「ふーん。二十一時までには帰ってこないといけないんだから急いだ方がいいんじゃない?」
「あ、そうだった。じゃあまたね」
ソラは火野に手を振ってその場を後にした。
***
夢路がベットから起き上がり、外を見てみると夢の時のように真っ暗だった。そうか、さっきまでのは夕飯前の二度寝だったな。人間には、体内時計とか腹時計とかいうものがあると言うし、今食堂に行けばちょうどいいタイミングになるだろう。
いきなり明かりのある廊下に出たので、視界がチカチカする。ものすごく歩きづらい。階段を踏み外さないように慎重に一階へ降りると、いつもなら食堂から廊下にまで聞こえてくる賑やかな声が、今は全く耳に響いてこない。今日は何かイベントでもあっただろうか? 土曜日だからありそうだし、なさそうでもある。まあ、そんなことはどっちでもいい。今はとにかく腹が減っている。早くメシを食わさしてもらおう。
食堂へ入ると、やはり中は閑散としていた。生徒がほとんどいなくなる程のイベントとなると? 俺は色々考えを巡らしながら受け取り口に向かう。何だ? ここにも誰もいないぞ。
「寮長ー! メシちょうだーい」
大声で呼ぶと、奥から二年男子寮の寮長が出てきた。
「なんだ、やっぱりお前か夢路。どうしたんだ、夕飯の時間はもう過ぎてるぞ」
え? 俺は受け取り口の上にある時計を見る。時計の針は八時半を回っていた。ここのルールでは、食事は七時から八時までと決まっている。つまりもうきまりの時間は過ぎていて、俺は寝過ごしたということだ。通りで人がいないわけだ。
「えー何とかなんないの?」
「んー、今日の残りはあったかなー?」
そう言うと、寮長は一旦奥へ下がった。少しすると、寮長はトレイを持って戻って来た。夢路はこの時の彼がまるで聖人のように見える。
「ほら、ちょっとだけど残ってたから。これでよかったら食べな」
「ありがとう! 寮長」
こうして夢路は貴重な食事を運良く手に入れることができた。
「しかし、多いなこういうの。これで何回目だ? ああそうか、陸上部が今日はいないから、例の彼女が起こしてくれなかったんだな」
今日は陸上部の泊まり込みの練習でマキが学校にいない。だから俺は起きることができなかったのだ。
「片付けもしないといけないから、チャチャっとしてくれ」
「はいよ」
ガランとした食堂でチャカチャカと食器の音のみがする。広い分なおさら静かに、そして寂しい音となる。
***
「先輩、探しましたよ。部屋行ってもいないから色々回りましたし」
ソラが肩で息をしながら食堂に入ってくる。
「どうした? こんな時間に」
「先輩ってさっき夢見てましたか?」
「まあ、寝てたからな」
ソラは夢路の向かいに座る。
「……というか、なんで今食事を?」
「規定の時間に寝過ごしたからだ」
「ああ、そういえば陸上部も合宿で居ないんでしたね。それで、今日見た夢ってーー」
ソラは確認を含めて先程見た映像を語った。




