写った被写体(10)
「私が覚えている限り、そんなところはないんだけど」
ソラも同じく頭の中で写真を思い描くが、特に気になるところはなかった。
「なら、お前の目は節穴ってことだ。いや、お前たちか」
夢路にはちゃんと口にしなくても見透かされていたようだ。
「なら、今から田村の写真の捏造を皆の前で暴くってこと?」
「そうだな。ちゃっちゃとやっとくか」
夢路は立ち上がり、部室から移動しようとする。
「じゃあ、私今から陸上部の女子に部活が始まる前に時間つくってもらえるようにお願いしとくね」
「助かる。俺よりもお前から頼んでもらう方が確実だろう。田村の方は俺が連れていこう」
「なら、更衣室前に集合でいい?」
「おう。場所なんてどこでもいいさ」
ソラは部室から飛び出し、足早に廊下を駆けていく。
「ちなみに、どうやって崩すのか聞いても?」
「少ししたら聞けるんだから我慢しろ。それに一回でまとめて終わらせたいしな」
「そう言うと思いました」
ソラは夢路の性格について理解を深める。
「そういえば、お前さんにも一つ頼みたいことがある」
「何ですか?」
「花を一つ用意してくれ」
夢路はソラに依頼を伝えた。
***
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
打ち合わせ通り、陸上部の部室前に役者が全員揃っている。桐生が声をかけてくれた女子部員達と、夢路が無理やり引っ張ってきた田村。そして、ソラは小脇に布を被せた物を持ってきている。これが夢路の依頼の品だろう。
「それで皆をわざわざ呼び出したのは、昨日の事件の真相が解明したってことかしら」
柊が代表して訊ねる。
「はい。今からこの田村の悪事を証明しようと思います」
「ったく、強引に連れてこられたと思えば、次は犯人扱いか」
田村が口を尖られる。少し黙って聞いていてもらいたい。
「まずは、事件の内容を軽く整理しましょう。事件発生は一昨日の夕方六時頃。現場はこの更衣室。外から誰かが覗いているのに気づき、犯人を追いかける。そこで捕まったのがこの田村。しかし、本人が能力で撮ったという写真によって、その場は許された」
誰も夢路の話に口を出してこない。ここまでは文句なしということだ。
「しかしこの田村、調べてみるとかなり怪しい。一年前、女子バレー部で覗きがあった時も容疑者として名前が挙がっている」
「ちょっと待て。その事件はたまたま俺が近くにいただけだったし。不審なところなし、と判断されて無罪だ」
ずいぶんと早口だな。興奮してるのか、焦っているのか。
「俺が聞いたところだと、確たる証拠がなかったかららしいけど。まあ、そこはいいか。そして、前回の事件と比べると今回大きく違うところがある」
「俺が犯人の姿を見たっていうのと、それを写した写真だな」
冷静な自己分析ができているのか、田村の口からすんなりと出てくる。
「そうだ。逆に言えば、これが生命線って訳だ」
今からそれをぶった切ってやるよ。夢路は軽く笑みを浮かべる。
「じゃあ、そろそろお願いしても? 夢路くんの推理を。その仰々しく隠しているものも見たいし」
タイミングよく柊が声を上げる。やはり、この人は夢路の思考を当たり前に先回りしているようだ。
「では、まずこちらの画像をご覧下さい」
そう言って夢路は、今までソラ小脇に抱えていたブツの布を外す。すると、昨日写真部の前の廊下で見た黄色い桜、御衣黄が咲き誇る額縁が出現した。
「夢路くん、それは?」
「おい、俺が撮った写真じゃねーか。何勝手に持ってきてんだ」
「いちいち喚くな。ちょっと借りるだけだ」
夢路が田村を一喝する。持ち主よりも態度がでかい男である。




