写った被写体(8)
「ちなみにその容疑者さんってどなたか教えていただけたりしますか?」
「一年前ですから、大丈夫ですよ」
学内の事件はずいぶんと時効が早いらしい。
「田村っていう男子生徒の名前が挙がっていました。カメラを持って更衣室の近くにいたので。本人曰く、体育館裏の山の写真を撮っていたらしいですが」
「かなり怪しいですね」
「はい。しかし本人の供述通り、カメラには大量の山の写真しか撮っていなかったため、一応釈放となりました」
前回はやっていないという証拠を提出できなかったから、疑われはしたようだ。今回は例の写真のおかげで、そこまではいかなかったのか。さて、欲しい情報は聞けたし、そろそろお暇しよう。
「ご協力ありがとうございました。おかげで良い記事が書けそうです」
「いえいえ。こちらこそ取り上げていただき恐縮です」
「では、私はこれで。部活、頑張ってください」
「……探偵部の部長さんがどうして嘘をついてまで調べてるの?」
ソラはいきなり冷や汗を流す。
「この件はまだ公には出来ないところがあるので」
「そう。冤罪はダメだろうという姿勢は素晴らしいけど、あなたはもう有名人なんだから自分を偽って騙るのは詐欺まがいだから注意してね」
まさか見透かされていたとは。いや、冷静になればこの前の部長会議で正体はバレているのか。
「反省します。その上で色々聞かせて下さりありがとうございました」
「こっちの話も真剣に聞いてくれてたからね。お互い様ってことで」
ソラは深々と礼をして体育館を後にした。かなり遠回りだったが、これで女子バレー部の一年前の事件についてはおおよそ掴めた。なら、次に行こう。写真部の部室か、今度は本当に見当もつかない。でも、とりあえず、体育館から一番近い新校舎から回ってみよう。
日頃の行いのおかげか、ソラは新棟二階の写真部部室に一発で辿り着くことができた。田村がここにいると色々面倒なことになりそうなので、いないことを祈りながらソラは部室の扉を叩く。
「失礼しまーす」
中には男子生徒と女子生徒の二人だけ。田村は来ていないらしい。
「どうされました?」
男の方がソラに訪問の理由を尋ねてくる。さて、この場はどうするべきだろう。さっきみたいに嘘と虚言で押し通るか、真実で戦うか。ソラは一瞬逡巡した。
「私は探偵部部長の今際と申します。田村さんのことで聞きたいことがあってこちらに伺いました」
ソラは後者を選択した。どうせ遅かれ早かれ、田村が犯人であると疑っていることを明かさなければならなくなる。そうしないと、有益な情報は得られないだろうから。なら、最初からありのままを見せよう。
「確認ですが、ウチの部員である田村 渉のことでいいんですね?」
「はい、そうです。写真部の田村さんについてです」
ソラは真っ直ぐ相手の目を見てそう告げる。向こうは表情を全く変えない。
「とりあえず、掛けてください。そのまま突っ立っられてると話しづらいですから」
言われた通りソラは近くにあった椅子に腰掛ける。ここからが本番だ。相手は身内を守るため、極力情報を出してはこないだろう。それにどこまで食い下がれるか。これが今回の勝負のテーマだ。
「それで、田村の何を聞きたいんですか?」
「そうですね。まず、お二人は昨日の陸上部の騒ぎはご存知ですか?」
「覗き犯が出た、とかいう奴ですね」
今度は男の隣に座っている女の方が口を開く。さっきの新庄も知っているところをみると、今回の事件はかなり生徒の間に広まっているみたいである。
「その容疑者に田村がなっているのは、どうですか?」
「え、またですか?」
男が顔をしかめる。




