写った被写体(4)
校舎裏に残ったのはソラと桐生と、さっきの部長の三人だけになった。
「あのままいくと危ないところだったね、今際さん。君はとりあえずの証拠すら持ってなかったから、水掛け論ですら分が悪かっただろうし」
ソラの状況まで察してあの判断を下してくれた。この人、相当頭が切れるようである。
「ええ、助かりました。えーっと」
「私は柊。陸上の部長を務めている」
柊、そういえば桐生の口から聞いたことのある名前だ。
「そういえば、何で私の名前を知っているんですか?」
「君は有名人だからね、名前と顔が一緒に出回るくらいに。それにマキから話はいっぱい聞いていたから。探偵部の敏腕部長さんだ」
敏腕? 何を言っているんだか。
「偶然が重なってそう見えているだけですよ。それより今回の件、柊さんはどう考えているんですか?」
「そうだね、正直あの田村が怪しいと思う。アイツは結構そういう噂が立っているし」
「そういう噂?」
「一年くらい前かな。まだ私が一年生だった頃、女子バレー部の更衣室で盗撮事件があったのさ。確たる証拠がなくてうやむやになってしまったけど」
「その容疑者の中に田村さんがいた、という訳ですか」
「私も当事者じゃないから詳しくは言えないけど、噂があるというのは事実だ」
限りなく黒に近い男、田村。突き崩せない壁は写真の一枚きり。ソラは少しもどかしく感じる。
「一度部室に行って先輩に相談してみましょう」
「賛成。リュウならどうにかしてくれるかも」
「なら私も同行しよう。そっちの方が面白そうだ」
こうして一行は探偵部部室に向かった。
**あ
「叩けばいくらでもボロが出てきそうな男だな」
桐生によって叩き起こされた夢路は、話を聞いて率直な感想を述べた。
「でも、あの写真をどうにかしないといけないんじゃないの?」
「確かに。それを盾に強く出られたら私はかなり分が悪いですね」
「あれが捏造だと分かれば犯人も田村ってことになって一石二鳥なんだが……」
柊が途中で言葉を詰まらす。それがかなり難しいことであるのは皆理解している。
「背理法的に解いていくか」
「背理法? 何ですかそれ?」
ソラが首を傾げる。
「ある命題が真であることを仮定して、それに矛盾が生じた場合、その命題は偽であることを証明する数学の方法だね」
柊が定義的なことを説明してくれる。そういう堅苦しいことを夢路の口から聞くことになるとは思っていなかったので、ソラは意外だなと感じる。
「要するに、今回は写真に写った男が実在すると仮定して色々調べた結果そんな事実はない、と田村に突きつけてやろうって話だ」
「なるほど、つまり地道に可能性を潰していくわけね」
マキが首を小さく縦に何度も振る。ちゃんと共通認識となったみたいだ。
「で、夢路くん。具体的には何をするつもりだい?」
「片っ端から色々聞いて回る、それしかないな。今日の関係者にはもちろんのこと、去年の女子バレー部の関係者、そして田村の噂の真偽がどれくらいなのか。この辺りについて根掘り葉掘り」
「やることがいっぱいあるわけですね」
ソラが立ち上がる準備をする。
「ああ、そういうわけでよろしく」
夢路は再びベッドに沈む。この寝つきの良さは見習いたい。
「なら、今日のうちに陸上部女子の話を聞いておいたらどうだろう。多分今頃、皆着替え終わって更衣室から寮に戻ろうとしているはずだ」
つまり、今なら絶対覗きには間違えられないってことである。さっきの皆を解散させた件といい、柊はずいぶんと物事の先まで見ているようである。
「それなら、急いで行きましょう。全員に話を聞き終わるのは時間がかかるでしょうし」
チンタラしてると、それこそ寮に帰ってしまうだろう。
「ああ、なら走ろう」
沈みかけている夕日に向かって三人は走っていく。




