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中途半端は大変です!  作者: 平下駄
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写った被写体(3)

「一応この方の言い分も一応聞いてあげてもいいんじゃないですか? そもそも、この人が覗いている姿を直接見た方は?」

「いや、それは……」

「でも、私たちが更衣室を飛び出した時、周りにいたのは、カメラ片手のこの男だけだったのよ」

 なるほど、一応状況証拠はあるのか。


「だそうですけど、何か反論はありますか?」

 ソラは今度はちゃんと男の方に話を振る。この中で唯一の冷静な第三者がファシリテーターを自然と務める。


「ある。まず、俺がカメラを持っていたのは、俺が写真部で今度の文化祭で、展示するための夕暮れの校舎の写真を撮るためだ。なんならカメラの中身を確認してくれ。盗撮写真なんて入っていない」

 もっともらしい話だ。それにカメラの中身という物的証拠を持っている。男の発言から、すぐにカメラが検閲にかけられているが、何も言ってこない以上それは真実らしい。


「でも、写真がないだけでアンタが犯人じゃないとは言い切れないよ。撮る暇がなかったのかもしれないだけかも」

 中々鋭い指摘が入る。そう言われればそうだ。


「じゃあもう一つ。俺は犯人を見た。女子更衣室の方から走ってくるやつだ。とっさにソイツを追いかけて校舎の方に走っていたら、お前が目の前にいた」

 男は手足を押さえられているので、かわりに顎でソラの方を指す。ここで話の矛先が移るのか。


「でも、私は校舎裏に来るまでに誰ともすれ違いませんでした。ならやっぱりあなたが犯人ではないのですか?」

「それがおかしい。絶対すれ違っている筈だ」

 そんなことを言われても、私はありのままの真実を話しているだけなので、責められてもどうしようもない。このまま話は平行線か、ソラは厄介な気配を感じる。


「俺の方にはちゃんと、証拠がある! 写真を見てくれ」

「カメラにその更衣室の方から走り去ってきた男が写っているの?」

「いや、そんな写真はどこにもなかったよ」

 さっきカメラを検閲していた女子が口を挟む。


「違う、俺のズボンに入っている写真の方だ」

 すると、男のズボンの後ろポケットから一枚の写真が出てくる。その場にいた全員がそれを覗き込み、男が言うような光景が写っているのを確認する。夕暮れの空と、陸上部の更衣室があるグラウンド方面から走ってくる、後ろ姿なので顔までは分からないが、黒いジャージを着た男の写真。


「な? これで俺は無実ということだろ」

 男の発言が一応は認められ、拘束が解かれる。

「でもその写真、いつ現像したんですか?」

 さっき撮った写真が、もうすでに現像されている。しかも、デジカメにデータが残っていない写真をだ。一体どうなってるのか? ソラは疑問に思った。


「ああ、それは俺の能力で撮った写真だからな。俺の能力はシャッター、っていういわゆる念写の一種だ。詳しく言うと、真っ白な印刷紙に、今さっき見た光景をそのまま写し出す力だ」

 なるほど、能力で撮った写真か。珍しいものを見た。


「どうだ、これで本当にもう俺の疑いは晴れただろ?」

 うーん、皆あんまり納得のいく表情はしていない。

「能力で作ったんじゃ……」

「ねえ。捏造の可能性もあるし……」

 捏造、やはらはその可能性が引っかかる。そもそも、この男とソラはまず意見が食い違っているのだ。あまり信用はできない。


「ソラちゃん。もしかしたら、犯人が能力を使ったんじゃないの?」

 桐生がソラの方に近づいてきて、そっと耳打ちしてくる。姿を消す能力、つまり自分の全身を透明に変えることができる能力。ちょっと便利すぎる力な気もする。


 しかし、ソラの方は特に何か証拠を持っているわけでもないし、向こうは偽造の可能性があるとはいえ一応犯人の写った写真を持っている。ここを突かれる前に解散させた方が事態の収束は簡単だろうと判断する。


「皆さん。とりあえず今日はこれで解散していいんじゃないですか? 彼の身元をはっきりさせて」

 ソラが口を開くと周囲にいた女子が全員、ある一人の方へ視線を向ける。多分、この中で一番偉い陸上部部長か、それに準ずる人物なのだろう。背丈は百七十センチほどで、凛として眼に力があり、芯がしっかりしていそうな女性に見える。


「そうだね。ひとまずは今際さんの言う通りにしよう。君、名前は?」

「二年一組、田村だ」

 なるほど、ソラはきちんと頭の中にメモをする。その言葉を吐き捨てるようにして、田村はこの場から去っていく。感じの悪い男だと思ってしまうが、盗撮魔扱いされたら、あれくらいの悪態はついて当然か。陸上部の部員達も潮が引いたように部室の方へ帰っていく。

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