無色のフリースロー(10)
『先輩、大丈夫かな?』
コートの外からソラは夢路の姿を眺める。すると、横からジャージ姿の女子生徒が近づいてくる。背も高く長い髪を靡かせた大人な雰囲気の彼女に、ソラは少し見惚れてしまう。
「はじめまして、マネージャー三年の泉です。今日はよろしくね」
「はい、こちらこそお願いします。バスケもマネージャーも分からないことだらけなので、どこまでお力になれるか分かりませんが、精一杯やらせていただきます」
「元気が良くて素晴らしい。花丸あげちゃう。そうだ。キリちゃん、ちょっと来て」
泉に呼ばれてやって来たのは、目つきがやや鋭いまたしてもジャージ姿のショートの女性。キリちゃんは、どこか不機嫌そうにも見える。
「ほら、挨拶して」
「二年の長谷川です。どうぞ」
「もう、元気ないよ。キリちゃんも今際さんみたいにシャキッとしないと」
「はーい」
ソラの目には、二人のやりとりはどこか親子のように映る。
再びコート内に目を向けると、選手たちが両側のサイドライン沿いに二人、中央に一人の計三人がランニングパスを行いながら、レイアップシュートを決め、一往復をして戻ってくる練習を代わる代わる行なっていた。
「これは何という練習なんですか?」
「スリーメンだね。速攻を意識した実戦的なメニューの一つで、ああして走りながら高速でパスを回して最後にシュート。結構簡単そうに見えて複雑なの」
ソラが動きをじっくり観察すると、確かに皆がドリブルなどを使わずスピード感を持って動いているし、声かけを行いながらきちんとチームワークも駆使している。こうしてみると高度な練習であると驚かされる。
『こうしてみると、知らないことばかりだな』
そして、次の選手の中に夢路が平然と混ざっているのに気付き、ソラは目を見開く。こんな複雑な動き、経験もない夢路が簡単に真似できるのだろうか。いや、出来ないと思いつつもソラは静かに見守る。
そんなソラの考えは何のその。夢路はコートに入り、選手たちからパスをもらいながら軽快にゴールを目指す。仕上げと言わんばかりにきちんと復路でレイアップを決めて後列へ戻っていく。
「泉さん、この練習って初心者がすんなり出来るものですか?」
「いいえ。普通ならボール落としたり、スピードが落ちたりしてどこかぎこちなくなるものなんだけど。彼、完璧にこなしてたね」
小さく拍手をする泉。
「絶対経験者でしょ。さっきの自己紹介も謙遜だろうし」
その一方で何故か不機嫌そうに話す長谷川。助っ人が想像以上に上手なのであれば、普通は喜びそうなものなのに。ソラは少し違和感を覚える。
その後も練習は続いていたが、しばらくしてタイマーが終了のブザーを大きく鳴らす。
「今際さん。これからフリースロー二本ずつ打って休憩だから、私が読み上げた結果を名簿にメモしていく作業をお願い」
泉からバインダーとボールペンを受け取り、泉の後ろをついていく。渡されたバインダーには、名前の横に◯×が記されており、シュートの成功と失敗が膨大に記録されている。
選手は二手に分かれて、どんどんゴールにボールを投げ込んでいく。前方を泉とソラが、後方を長谷川が担当している。
「鈴木誠 ◯、斉藤信也 ×」
ソラは泉の声に集中して一生懸命記録を取る。これでは、フリースローの際に奇妙な動きをしている部員がいるかチェックするなんて土台無理な話だ。
『全然打ってるところ見れない。というか、これあんまり分業向いてるタイプの仕事じゃない……』
こんなことなら、泉さんに事情話しておくんだった。弱音を吐きながらもソラは何とか仕事をやり終え、バスケ部は休憩に入った。
『先輩はどうなってるんだろう?』
泉から夢路の名前が呼ばれなかったということは、おそらく後方のコートにいるということだろう。案の定、そこには大の字で倒れている男が一人。
「先輩、お疲れ様です」
「タツの野郎、俺のこと殺す気か?」
開口一番が幼馴染に対する愚痴とは、相当機嫌が悪いみたいだ。




