無色のフリースロー(9)
「で、相談って?」
「実は、このところバスケ部の部員たちがおかしな症状に困らせられているんだ」
「症状?」
「一時的に白色が見えなくなるんだ」
「ずいぶん妙な話だな。集団色覚異常か」
夢路は顎に手を置く。ソラも首を傾げて考える。
「その症状が起こり始めたのはいつくらいからなんですか?」
「二週間くらい前かな。もうすぐ大会でスタメンが決まるって頃に、一人また一人と異常を口にするようになっていった」
「お前も経験したのか?」
「ああ。どうやら全員の話を統合すると、フリースローの際に症状が現れていた。俺もゴールネットやバックボードの白線が見えなくなって困惑したよ」
「具体的に何人くらいとかって分かりますか?」
「大体十人くらいかな。上級生ばかりで一年生でかかった人はいないらしい」
「となると、答えは自ずと決まってくるな」
工藤の話を聞いて、夢路は考えがまとまったようだ。
「聞かせてくれ」
「お前にとってあまり気分の良い話ではないかもしれないが、スタメン争いの妨害だろう。誰かが能力を使って邪魔していると考えるのが自然だ」
自分と同じ部員が犯人、その話を聞いても工藤は表情一つ変えない。
「実は俺たちバスケ部でも同じような結論に辿り着いた。だが、問題は」
「手段が不明、というわけか。フリースロー中に不審な動きをしているやつを炙り出すだけだろ?」
「そう思って選手の動きはチェックしてるんだけど、何も分からず仕舞いでさ。だからここに来たわけなんだけど、頼むリュウ」
工藤が頭を下げる。ソラも決してバスケに詳しくないため、今回の件はあまり自信がない。なんせ、犯人は経験者が見ても分からないように巧妙に犯行を行なっているのだ。いきなりの難問ハウダニットを、夢路はどうするのか。
「いいぜ。とりあえず、まずは体育館か」
夢路は軽く立ち上がり、二人を見下ろす。
「ありがとう。なら、ついてきてくれ」
工藤が先頭をきって、三人は探偵部を後にする。
「チビ助、お前さんはマネージャーをやったことはあるか?」
「いえ、ありませんけど。それがどうしたんですか?」
「今から必要になるからさ」
「はい?」
「まさかこの前の経験がこんなところで役に立つとは。人生ってのは何が繋がるか分からないものだな」
ソラは何となく夢路の意図を汲み取った。
***
「リュウは体験入部、ソラちゃんはマネージャー見習いって形でいいか?」
体育館に着く直前で、工藤が提案する。
「了解です。しっかり選手のこと観察します」
「俺もマネージャーでいいぞ。動くのダルいし」
「中からと外からで見てくれないと意味ないだろ? 今日寝れない分は明日しっかり取ってくれ」
工藤は夢路の返事も聞かず、体育館の扉を開ける。
「部長、遅くなりました」
工藤が駆け足で一人の男子生徒に近づいていく。背丈は工藤と比べると若干低いが、それでも普通の人よりは断然大きい。ソラは今日の会議でうっすら見かけた気がする顔だと思う。ちなみに、夢路は欠片も覚えていない。工藤とその男が夢路とソラの前にやってくる。
「部長の桐原です。悪いね、二人とも。さっき存続が決まったばかりですぐにお呼び立てして」
「とんでもないです。これからもバリバリ頑張っていくつもりですから。ね、先輩?」
「まあねえ。それよりも体験かあ」
夢路はそんなことよりもこれからの運動量の方に意識が向いている。
「とにかく、怪しまれないように頼むよ。ウチもこんなので全国行けなかったなんて洒落にならないから」
「名目はお手伝いって感じで?」
「うん。あとは適当にアドリブでお願い」
桐原と夢路の間で共通認識を得たようだが、ソラは追いついていない。
「全員、集合ー!」
桐原が号令をかけ、部員を集める。
「本日、酒井とマネージャーの古川が欠席のため、急遽探偵部のお二人に助っ人をお願いした。お忙しいとは思いますが、よろしくお願いします」
「どうも、こちらこそよろしく。探偵部の夢路です。初心者なのでお手柔らかに」
「同じく部長の今際です。よろしくお願いします」
なぜか拍手が起こり、そのまま散会となる。そして練習が再び練習が始まる。




