無色のフリースロー(8)
「話してくれて、ありがとうございます」
「これから探偵部はますますそういう組織として動いていくことになる。今のところ超研会は気にする必要はないから、当面は生徒会が相手。それだけ分かっていれば今は十分だ。といっても別にやることは変わらん。俺たちは今まで通り客が持ってくる事件を解決していくだけだ」
「了解です!」
ソラは一層気を引き締めていこうと考える。
「今の宣戦布告とも取れる発言、記事にするのは?」
「書いたらぶん殴る」
「はーい。じゃあ私もこれくらいで。二人とも、ファイト!」
来訪者が去り、部室にはいつもの二人だけとなった。
「そういえば、ウチの泣き所って実質部員が二人しかいないとかの方が弁明の余地ないじゃないですか? どうして今日言われなかったんだろう」
ソラの発言に夢路は天井を見ながら答える。
「理由は二つある。一つ目は探偵部以外にも影響が出るから。やつらも無意味に敵を作りたくはないさ」
「そういえば、美術部もそうでしたね」
ソラはあそこも三人だけで実質活動していたことを思い出す。
「幽霊部員を囲っているのは、割と文化部では普通にある。こいつらは基本一般生徒側だから中々反感は買いたくない」
「うーん、でも対抗勢力の人間であれば最悪どうだっていいという考えになってもおかしくないのでは? 自分のところの派閥の人間ならともかく」
ソラは冷酷そうな会長なら実行しておかしくない采配だと感じる。
「そこで二つ目だ。俺たちの部員、マキとタツの存在だ。こいつら二人はそれぞれの部活のエースであり、部の中心人物だ。そして、バスケ部や陸上部は生徒会派閥の人間が多い。もし、この二人が本来の部活を離れて探偵部に真面目に来る、なんて事態が発生したらどうなると思う?」
「部活としては大きな損失。幽霊部員であるからこその抑止力というわけですね」
「そういうこと。いくら自分たちのせいで探偵部が潰れるからといって、流石に部活を辞めてまでこちらに来る可能性は低いだろうが、虎谷もゼロではないと判断したというわけだ」
部員の選定の時点から色々な賭け引けを仕掛けていた。そして、今日はそれが見事にハマった結果か。改めて、ソラは夢路をいち早く呼ぼうとしてくれた山本に感謝する。
「今日は疲れたから寝る。客が来てヘルプがいるときだけ起こしてくれ」
「いつも寝てるじゃないですか。でも分かりました」
「まあ、今日はもう一仕事したみたいなもんだし、そこまで重要な案件はやってこないだろうよ」
あくび混じりに夢路が呟く。この直後に寝息を立てられるというのだから凄まじい速度の切り替えであると、いつもソラは驚く。
ようやくいつも通りの日常に戻り、部室には静かな雰囲気が流れる。ソラも椅子に座って少し落ち着く。
***
しばらくして、部室の扉をノックする音が響く。
「どうぞ、お入りください」
わざわざ部室に入るのにノックをするとは。相手は紳士淑女が相応しい人物だと、ソラは咄嗟に想像する。しかし、扉を開けたのは背丈が非常に大きい男子生徒。夢路と同じくらいに、しっかりと筋肉のついた体格。そして目鼻の整った顔。どこか見覚えのあるその人物に、ソラは頭をフル回転させる。
「リュウって寝てる?」
リュウ……そうか、この人はタツさんだ。マキさんと同じ先輩の幼馴染の。ソラは先程も名前だけは出ていた男の正体を思い出す。
「寝てますね。何かご用ですか? 私でよければ承りますよ」
「うーん、流石にリュウじゃないと厳しいかな。ちょっと部活のことで相談があって」
「そうでしたか」
ソラは少し肩を落とす。私じゃ信用ないのか。
「ソラちゃん、だよね? マキから色々聞いてるよ。俺は工藤竜也、よろしく」
「よろしくお願いします。タツさんですよね?」
「うん。しっかし、こいつのお守り大変でしょ?」
「確かに普段は手がかかりますけど、いざって時には頼りになります。今日も助けてもらいましたし」
「ああ、緊急会議ってやつね。なんか部長が座ってるだけだったとかボヤいてたけど、一悶着あったんだ」
「探偵部に白羽の矢が立って、他の部活は置いてけぼりって様子でしたね」
「ふーん、じゃあこいつ起こして詳しく聞いてみるか」
工藤は奥のベッドに近づき、夢路の顔に手を近づける。すると、右手で鼻をつまみ左手で口を押さえる。呼吸が出来なくなり、夢路はたまらず飛び起きる。
「よう、気分はどうだ?」
「最悪だ……殺す気か?」
夢路は肩で息をする。
「こうしないとお前起きないもん。鼻塞いでも口で息し始めるし」
「それで、用は何だ?」
「ああ、実はバスケ部のことで相談があってな」
二人は応接セットに移動して腰掛ける。ソラも夢路の隣に座る。




