無色のフリースロー(7)
「そこまで予測してたんですね。日誌や利用者の感想も初めから?」
「俺たちの活動内容はかなり不透明だからな、きちんとした記録があって損はないだろうと思っていた。現にこうして使ったわけだし」
夢路はベッドの方に移り、横になる。
「しかしこれで完全に生徒会と対立か。これから忙しくなるな」
「忙しいとか、そういう話? 夢路龍は、一般生徒の希望なんだからしっかり頼むよ」
二人の会話について、違和感を覚えるソラ。いや、その引っ掛かりは、山本とのやりとりでもあった。
「対立とか、陣営とか、戦争とか、この辺りの話が私にはさっぱりなんですけど、これは何なんですか?」
以前のソラであれば、知りたいと思いつつも決して開こうとしなかった扉。それを今こじ開けようとしている。
「……簡単に説明しよう。この学園は主に三つの勢力図で構成されている」
夢路は起き上がり、ソラの方を向く。
「一つは生徒会派閥。リーダーは生徒会長であり、その執行役員や一部の運動部が構成メンバーだ」
「野球部なんかはかなりこの派閥に属してるね。他にもサッカー部やバレー部なんかも多いかな。陸上部は、昔はここに入ってることもあったね」
ということは、マキさんもこの派閥だったのだろうか。
「あくまで傾向の話だがな。全員がそうと言うわけではない。次に、超研会派閥。リーダーは学生支部長であり、構成員は学内だと超研会メンバーのみ。一番人数は少ない派閥だ」
「少数精鋭、と言ってしまえばそれだけだけど、この派閥の最大のポイントは、外部組織と太いパイプを持っているということ。つまり、超研会直属の組織だからその気になればスーパーパワーで一捻り」
学園内のことを学外の力を背景に解決する。何とも恐ろしい話である。
「そして、最後に無所属派閥。先程の二つに属していない一般生徒だな。これが一番人数が多く、七割くらいを占めてる」
つまり、ほとんどの生徒は特に派閥に所属していないということだ。ということはあまり勢力図など意味がないのでは?
「無所属については、各個人で目立った人はいるけれど特にリーダーみたいな決まっておらず、本当にただの一般生徒の集まりという状態だったの。『一年戦争』が起こるまでは」
「一年戦争……」
重苦しく後藤が話すこの単語。ソラは以前耳にしたことがあった。ソラの体が緊張に包まれる。これから、いよいよ核心に迫る話になっていくのだから。
「それについては割愛する。長くなるから」
完全に肩透かしをくらい、ソラは体勢を崩す。
「とにかくそんな事件があって夢路くんは停学! その代わりに無所属の一般生徒たちからの信用を勝ち取り、実質的なリーダーにまで上り詰めたのでした」
後藤がパチパチと拍手を送る。
「そして、夢路くんが今年になって突然作った組織。探偵部への信用も高まり、今や無所属派閥は探偵部派閥へと移行しているのです。元々夢路くんと親交が深い人物は、自然とこの陣営に入っています。山本くんとか私、桐生さんなんかが正にそう」
後藤の説明を聞いて、ソラはおおよそを把握した。
「つまり、この学園は生徒会・超研会・一般生徒の三つの派閥があり、先輩は実質的な一般生徒の代表であると。……そんな人が生徒会長と対立して大丈夫なんですか?」
「やっぱりそう思うのが普通だよねー。かわいい後輩の質問についてはどうお考えで?」
後藤が夢路にマイクを向ける。
「何とかなる。というか、向こうから売ってきた喧嘩だ。それを買って何が悪い」
「うーん、一般生徒の方々に聞かせたら人選ミスと思われそうなので聞かなかったことにします」
このように整理されると、夢路の今日の立ち回りは非常に危険と言わざるを得ない。事態は一触即発といったところまで来ているのだと、ソラはようやく理解した。
「だから私たちと無関係の野球部が廃止なんてことを持ち出してきたんですね。……こんな話どうして教えてくれなかったんですか?」
「お前さんに聞く覚悟がなかった、そう判断したからだ」
夢路に言われ、ソラは目を見開く。完全に見透かされていたのであった。




