無色のフリースロー(6)
「にしても、まさか先輩が来るとは。というかどうして来たんです?」
探偵部へ向かう道中、ソラが説明する。
「お前さんがピンチだろうと思ったからさ。いつもは放課後が始まったら真っ直ぐ部室に来るはずなのに、今日はなぜか姿を見せない。おまけにブン屋も夕刊を届けに来る気配もないとなると、おおよその当てはつく」
「なるほど」
ソラは感心して夢路の話に聞き入る。
「俺が安藤に頼んで会議のことを伝えたからだろ?」
その後ろから山本が声をかける。
「これであの時の貸し借りはなしだ」
「そうだったんですね、ありがとうございます」
「いやいや、お前の計らいはせいぜい俺を二、三分教室に早く連れてきただけだ。それだけのくせに恩着せがましいやつめ」
夢路は鼻で笑う。
「その二、三分がなければ、会議は打ち切られてお前ら廃部だったぞ。ちっとは素直に感謝しろ」
「どうだか。大体お前もこんな回りくどいやり方じゃなくて、会議のときに助け舟の一つや二つ出してやれよ」
ソラは二人のやりとりを見て、山本の発言を思い出す。
『何だ、ただの仲良しじゃん』
***
夢路と山本の言い合いは結局探偵部の部室に到着してからも続いていた。
「だから、俺がなんで生徒会の前でお前らを庇う真似しなきゃいけねえんだよ。てめえが始めた戦争くらいきちんと自分でけじめつけろ」
「お前はどの陣営の味方だ? 探偵部のピンチに一肌脱ぐくらいの気概を見せろよ」
「あの程度の障害、自分たちの力だけで乗り越えられないようじゃ、どのみち先は長くないだろ。先に潰れるか後に潰れるかの違いだけだ」
お互い全く譲り合わない口論に、ソラは頭が痛くなってくる。
『やっぱり、この二人相性悪い?』
そのとき、探偵部の扉が勢いよく開く。
「やっほー、お二人さん元気だね。外まで話し声聞こえてたけど」
そこに立っていたのは新聞部部長の後藤。山本と同じく先程の会議では特に発言することはなかった。
「そういやお前もだよ、ブン屋。なんでさっき擁護しなかったんだ? まさかお前、あちら側についたのか?」
夢路は怪訝そうな目を向ける。
「いやいや、単純にあの場で生徒会に楯突いてもメリットないし。探偵部潰れたらウチの活動の一環ってことで合併しちゃえばいいかなって思ってさ」
「なるほど、本業が別にあるなら問題なし。野球部に対しても筋は通っているな」
夢路は一人頷く。
「そういえば、山本くんは大丈夫なの? 今日は新作の発売に向けた会議があるって聞いたけど」
「おっと、もうそんな時間か。じゃあな、夢路におチビ。これからも精進することだ」
「はい、今日は本当にありがとうございました!」
それだけ言い残して、山本は足早に去る。ソラはその後ろ姿に頭を下げる。
「商人暇なしって感じだね。はい、これ今日の夕刊」
後藤は夢路に校内新聞を差し出す。
「いやー、しかし今日の会議は恐ろしかったね。とうとう生徒会派閥が牙を剥いてきて」
「やり方が気に入らねえよ。あくまで自分たちではなく野球部からの議題。そんなわけないのは誰の目にも明らかなはずなのに。単純に気に入らないから潰したいですって言えって話だ」
「そもそも、なんで探偵部許可したんだろうね。こんな風に後から廃止にするくらいなら最初から認めなければいいのに」
後藤の発言はごもっともである。ソラは会長の意図を推察する。
「一度認めてから潰せば忌服期間があるからだろ。今回のはまさにそれを狙ってのことだ」
「忌服期間ってなんですか?」
ソラから素朴な疑問が投げられる。
「ウチの校則だと、部活動が廃止になると最低一年間は新たに部活を作れなくなるの。あくまで部長に限りの話だけど」
「お前さんに部長を頼んだ理由の一つだな。万が一潰されても今度は俺が新しく作るために」
あのときから最悪の事態まで想定していたのか。ソラは目の前の男の先見の明に驚かされる。




