無色のフリースロー(4)
『……ここまでか』
体勢は決まった、誰もがそう思った。山本が沈黙を破ろうと口を開こうとしたその瞬間、教室前方の扉が勢いよく開く。
「遅れて済まねえ、邪魔するぜ」
そこに立っていたのは探偵部副部長の夢路だった。
「先輩!」
「夢路、貴様! 今日は部長を集めた会議だ。副部長のお前が出席する資格はない」
副会長が強く責め立てる。
「固いこと言うなよ、同じ副同士仲良くしようぜ。それに、そちらさんはマネージャー同伴のように見えるが?」
夢路は奇しくも野球部の方を指差す。
「……いいでしょう。夢路くん、席は自分で用意してください」
会長が夢路の参加を認める。
「そりゃどうも」
夢路は椅子を持って、ソラの近くに座る。
「よう、チビ助。元気してたか?」
「そんな場合じゃないですよ、先輩! 私たちの探偵部が……」
「おおよそは分かってる。さて、今回の探偵部廃止の一件はどいつの提案だ?」
夢路が会議を仕切り直す。
「私です。探偵部の活動は生徒会や風紀委員で代替できるものであり、存在意義があるのか疑問に思ったため今回の議題に挙げさせていただきました」
「なるほど、野球部さんね。虎谷、確認だが今回の会議はあくまで野球部の提案が主題なわけだ」
「ええ、その通りです」
「じゃあ、野球部さんが納得してくださりすればそれで済む話。生徒会はただの進行役、という認識で間違いないな」
「構いません」
『これで、生徒会の発言を封じた』
山本は冷静に成り行きを追う。
「それは結構。では、野球部さん。存在意義、とおっしゃっていましたが、あなた達野球部にとってそれは何なんです? たかが部活にそれほど大層なものが必要で?」
「今回私が申し上げたいのは、あくまで唯一性のお話です。例えば野球部が二つも三つもあればそれは統一されるべきでしょうが、この学園ではそうではない。そこには唯一性があります」
この主張については、夢路も異論はない。
「一方、探偵部さんの活動内容であるお悩み相談などは既に生徒会や風紀委員でも実施されているものです。であれば、わざわざそれしか機能がないものは廃止しても問題はないはずです。私たちの部活動に支給される部費だって湯水の如く湧いてくるものではない。代替できる部分はそうするべきです」
角田の主張を聞き終えて、夢路は笑みを浮かべながら返答する。
「なるほど、つまり探偵部のやっていることは生徒会や風紀委員の一部業務の範疇でしかないから不要である。こうおっしゃるわけですね」
「その通りです。何か明確な実績でもあれば別でしょうが」
「実績? そんなものが部活には必要なんです?」
「それはそうでしょう。何か活動を行っているのなら明確な結果は必要です」
「では、野球部の実績とは? まさかあんな小さな地方大会で一勝したとか二勝したとか言わないですよね?」
ウチの野球部は決して強くない。はっきり言って弱小校の部類だ。これは一部を除いてどの運動部も大差ない。
「今日は色んな部活が集まっている。この中で、自信を持って実績があると言える部活は一体いくつあるんでしょうね。私も詳しくないですが陸上部と、バスケ部くらいですか?」
「論点を逸らさないでいただきたい。今はあくまで探偵部のお話です。他の部活動は関係ありません。それに大会成績以外にも練習量という努力の指標があります」
角田が険しい表情で返す。
「そうですか。では、探偵部の実績とは何なんでしょうね。大会があるわけでもなく、特定の練習に勤しむわけでもない。どうお考えです?」
「そんなものはないから、こうして」
「ここにあります」
夢路が上に掲げて皆に見せたのは、探偵部の日誌と利用者の声が書かれた単語帳。
「ノートの方は今までの探偵部の活動をまとめた日誌。単語帳は利用者の感想を書いてもらったものです。ありがたいことに今のところ回答率百パーセントの代物ですから、十分信憑性はあるはずです」
ソラはようやくあのときのおつかいの意味が氷解する。
『そうか、全てはこの時の証明のために』
夢路の周到ぶりにソラは改めて舌を巻く。




