規格外の正体(17)
「で、リュウ。続きは?」
桜坂学園に向かう帰りのバスの中で、行きと同じくマキが隣にいる。
「続き? 何のだ?」
周囲の人々は、疲労のせいか揃って寝息を立てている。だから、今話し声がするのは俺達の席だけ。まあ、あんだけ暑ければ疲れて当然か。
「今日の不幸のことよ。千五百メートル走が終わった後、出場した選手がドリンクを飲もうとして、ってところまで言ってたじゃん」
「ああ、そこからか。そして、ドリンクをいざ飲むと中身はスポーツドリンクではなく、真水となっていた。この現象は、近くにあった他のドリンクでも同様。ここまでで何か間違いがあるか?」
「ううん。というか、よくそこまで推測できたね。私そこまで詳しく話してないのに」
「色々見てきたからな。それよりも、この事件で一番重要な点は何だと思う?」
「重要? 不可解なのは動機かな。犯人が一体何がしたかったのかイマイチ見えてこないし」
珍しくいい答えが返ってきた。夢路はあごを撫でる。
「そう、動機だ。犯人は妨害やイタズラのためにしては、効果が薄かったり手間がかかったりなど、理にかなっていない行動を取っている。でも、実は逆だったんだよ」
「逆? じゃあ、犯人は善意で行動したってこと?」
「そうだ。真水に変わっていたのは、選手の気持ちを鑑みての結果だ」
「え、真水に変わっていたのが?」
そんなに大きな声を出すなよ。本当に底なしの体力だな。
「ポイントは場所だ。あのドリンクが置いてあったベンチ、日当たりはどうだった?」
「それは、一番手前にあったのだから普通に日が当たってたんじゃないの?」
「なら、その中身の温度はどうなる?」
「温くなるって、あれ?」
マキが顎に手を当てる。
「だが、俺も実際に飲んで確かめたように水は冷たかった。まるで直前まで冷蔵庫に入れていたかのように」
「でも、それは直前に誰かがクーラーボックスから取り出しただけじゃないの?」
「もう一つおかしな点、それは水滴だ。ボトルの表面には、結露が起こっていなかった。いくらすぐに出したからといって、西日に当たっていたのなら、自然現象には逆らえないはず」
「じゃあ、どうやって冷やしたの?」
「決まってるだろ、能力だ。しかもこれは冷やしたんじゃない。時間を戻したんだ」
「時間を戻す?」
「おそらく、事件の真相はこうだ。まず、マネージャーの一人が午前中に一番手前のベンチにドリンクを並べる。これは、選手が手に取りやすい位置に置くという配慮だったのだろう。ちょうど日陰になっていて、好都合と考えた。だが、それは日が高いうちだけだ。午後になって日が当たるようになり、ドリンクはどんどん温くなる。そこに現れたのが、今回の犯人。ドリンクが日向に放置されているのを見て、たまらず能力を使ったのだろう」
「で、その能力って何?」
「対象の物体の状態を、半日か二十四時間前に戻す力だろう。前日の夜から、ドリンクは冷蔵庫に冷やされているはずだからな。しかし、ここで一つ問題が発生する。それは、前日には含まれていない不純物があったからだ」
「不純物? あ、分かった。ドリンクの素だね。これは今朝の準備の時に混ぜられるから」
「そうだ。粉は多分ベンチの下にぶち撒けられたのだろう。きれいにホウキで掃除されていたが、若干残っていた」
これは、夢路が今日やった唯一の調査による者である。
「そういうことだったんだ……」
言葉を詰まらせる。マキも納得したということだろう。
「そして、結露が発生しなかったのは、能力で情報を昨日と入れ替えたからだろう」
まあ、詳しいところは知らない。だが、筋も通ってはいるし、何より桐生が了解しているのなら問題はないだろう。
「さて、俺は寝るぞ。そういえば今日の走り、凄かったな」
個人もリレーも全国出場とは。やっぱりコイツは天才なのかもな……。まどろみの中で夢路は今日の光景を思い出す。
「ねえ、リュウ。次の大会も見に、って寝ちゃったか。はあ、大事なところでいっつもこれだから」
何かマキが言っているような気がするが、明瞭には聞こえない。しかし、眠ろうとしているので仕方ない。夢路は意識を手放す。そういえば、今朝もこんな感じで何か考え事をしていたような気がする。何だったか……。




