規格外の正体(16)
「リュウ、起きてー」
いつもの朝と比べてほんの少しだけ優しく起こす桐生。他校の目と、夢路が座っていることが関係しているのだろう。
「どうした、マキ。もう閉会式終わったのか」
本当にギリギリまで寝ているつもりだったのか。相変わらずこの貪欲さにはいつも驚かされる。
「違う。今朝バスの中で話してた不幸が起こったのよ」
「不幸? ああ、あれか」
欠伸をしながら、両手を天井に向かって目一杯伸ばしている。まだ眠気半分というところだろう。
「自分が見た夢でしょ。ほら、しゃんとして」
「はいはい。で、例のドリンクはどこにあるんだ?」
私は、先程前村さんが近くにいたベンチの上から、適当に一本拝借してくる。
「はい、これ。あそこのベンチにあったドリンクが全部真水になっていたの」
私は、一番奥の日陰で休んでいるリュウに指差して教えてあげた。
「あの一番手前のベンチのところからか。ふーん、冷たいな」
それで目が覚めてくれるといいのに。
「全部が水、か。あそこにドリンクを出したのは誰か分かるか?」
「うーん、マネージャーの誰かだと思うけど、それ以上はちょっと。選手は自分の競技で忙しいだろうし、マネージャーもいちいちどこに誰が出したなんて覚えてないと思うよ」
「そっか、ならいいや。どうせ聞いても無駄だろう」
リュウは、両手を頭の後ろに持っていって足まで組み始める。
「一人で勝手に納得してないで、ちゃんと説明してよ」
「めんどくせーなあ。じゃあ、一応確認しておくか」
そう言うとリュウは立ち上がり、件のベンチまで歩く。そしてその場にしゃがみ込み、ベンチの下の地面を手のひら全体で何回かなぞっている。まるで、表面の感触を感じるように。
「何してるの?」
手を払う動作をして、リュウは再び立ち上がる。
「この事件解決のための調査だ。まあ、これで終わりだけどな」
解決のための調査が終わった、ということは。
「分かったの、この事件?」
「多分な。それにしても、ここは暑いな。もう昼下がりで西日が入ってくるからか」
そう言って踵を返し、また一番奥のベンチに腰掛ける。
「なら、聞かせてよ。リュウの推理」
私はリュウの隣に座る。これで準備万端だ。
「まずは、確認だ。事件が起こったのはついさっき。競技が終わった直後の選手が、水分補給のためにボトルを手にして——」
「マキー! リレーに出る選手は集まれって」
なーちゃんがこちらを呼んでいる。これからようやくいいところだったのに。
「ごめん、多分下平先生が招集かけてるんだと思う。リレー終わったら聞かせて」
そう言って、私はリュウの元を去った。
***
以上をもちまして、閉会式を終了します。
その後、リレーも無事に終わり、夢路はマネージャーとして帰りの荷物を整理しているところである。全く、マキには途中で起こされるし散々だった。でも、あれがなかったら完全にリレー観ずに終わっていたか。そこは感謝する。
「夢路くん、もうこれで後は帰るだけだからさっさと運んじゃって」
木野下が手際良く片付けをしながら指示を出す。忙しい人だ。
これでようやく帰れるのか。そう思うと、この会場もどこか郷愁のようなものを感じる。夕日で赤く染められているからというのも関係しているだろう。




