規格外の正体(15)
「お、始まるみたいだね」
気がつくと、各レーンに選手が並んでいる。これから五分程度で、勝者が決まる。スタートの合図が出され、各者一斉に走り出す。長いようで短いこの時間を、私達は全力で応援した。開始されて一分程度が過ぎた時、柊さんは後方集団にいた。
ライン取りやペース配分などは、選手毎で最適解が違うだろうし、柊さんがその中でちゃんと走れているのかも私にはよく分からない。しかし、終盤になってからの追い上げに次ぐ追い上げで、彼女はどんどん前に浮上してくる。こうなってくると、私達は大声を張り上げて、手に汗握っていた。柊さんの着順は二位だった。全国大会に出場できる資格があるのは、表彰台の三人だけ。見事切符を獲得したのだ。私達は早速彼女のもとに駆け寄った。
「お疲れ様です。無事全国大会進出ですね」
「まあ、マキ一人だけじゃ寂しいだろうからね」
肩で短く息をしつつも、その姿は平然と変わらない落ち着きや冷静さが感じられる。軽口も出ているし。
「すごかったです。特に最後の追い上げが」
すっちーが感想を述べる。
「私もあそこから先頭争いはもう駄目なんじゃないかって思いました」
なーちゃんもそれに同意する。
「最初のペース配分が、少し遅めで取ってしまっていたからね。何とか挽回しようと頑張ったのさ」
それで間に合うのだから、やっぱり実力のある選手だ。私達はこうして会話を弾ませながらベンチに帰ってきた。
見ると、リュウはさっきと同じ場所で姿勢も変えず座っている。ちゃんとそういう風に他の学校関係者から見えていればいいのだが。まさか競技中に寝ている生徒がいるなんて、前代未聞だろう。近づいてみると、まだ熟睡中といったところだった。せっかく会場まで来たのだから、競技観たらいいのに。
「ちょっと、これどうなってるの?」
突然、背後から怒気が混じった声が聞こえる。辺りを確認すると、声の主は三年生の前村さん。さっき柊さんと同じ決勝を走っていて、結果は残念ながら六位だった。
「サキ、何にそんなに腹を立てているの?」
柊さんがすぐに事情を確認する。
「このドリンク、真水になってるのよ。ほら、柊もちょっと飲んでみて」
「確かに、冷たい水だね」
「でしょ。ちょっとマネージャー達、何でドリンクにしてないのよ」
「まあ、一本くらいミスがあっても仕方がない。あまりくどくど言わないように」
真水にドリンクの素である粉を混ぜるのは、今朝のマネージャーの準備の一つだ。もしかして、リュウがそのことを知らずに、ただの水をクーラーボックスに入れて冷やしたのだろうか。本人はまだのんきに寝息を立てている。
「しかも、これ一本じゃないのよ。他のドリンクも中を見て確認したけど、全部ただの水だった」
全部が真水。なら、リュウのミスではないのかもしれない。いくらなんでも、全てのドリンクを作ることを素人一人に丸投げする程、うちのマネージャーは冷たくないだろう。
では、一体どういうことなのか。そうか、これが今日の予知夢の内容か。そういえば、少し前リュウと中身のすり替えについて議論をしていた。リュウは、全部のボトルの中身が細工される可能性はまずないと言っていたが、現実にはそれが起こっている。
そして、他校からの妨害の可能性も述べていたが、実際はただの水になっているだけ。おそらく、下剤等は混入されていない。では、犯人はどこの誰でその動機は何なんだろうか。確かにドリンクが水になっていたら、少しテンションは下がる。
しかし、それが競技に支障をきたすような大事にはならないだろう。ならば、犯人は他にどんな目的があったのか。これがイタズラだったら、どうしようもないが、さすがに全部の中身を入れ替えるほどの徹底ぶりからそうは考えづらい。ならば、他にどんなことがあるのか。私は考えを脳内に張り巡らせる。しばらく考えたが何も思いつかなかった。リュウを起こすのが一番早いか。




