規格外の正体(12)
「気分はどうですカ? 今際さン」
アイリに連れられ、ソラはいくつかの部屋で着々と検査を受け終わり、今は休憩中。廊下のベンチに腰掛けながら水を飲んでいる。
連れられた先にあったのはどれも普通の健康診断では使うことない大掛かりな装置に見えたが、アイリ曰く「大は小を兼ねてるだけで、やってることは普通の検査と同じでス」とのこと。正直機械に詳しくないソラにはその真意を確認することはできない。それでも、少し胡散臭いと感じている。
『絶対内緒で何かしてるよ。明らかに機械から普通じゃ鳴らない音してたし』
「実は先程の機材、検査の途中で故障してしまったみたいデ。何か身体に異常等感じませんカ?」
「あ、そうだったんですね。ちょっと音に驚きましたけど、それ以外は特に大丈夫です」
なんとタイミングの悪いことか。少しこの人のことを疑ってしまったのを謝罪しよう。ソラは心の中で頭を下げる。
「なら、良かったでス。今ちょうど半分といったところですから、あともう一踏ん張りですヨ」
アイリに励まされ、ソラは少し疲れが和らぐ。そうだ、こんな検査などとっとと終わらせてしまおうではないか。
「そうですよね。アイリさん、案内お願いします」
「はい、かしこまりましタ」
カタコト少女に健気についてくソラ。
『あの機械、結構高いんですけどネ。それにしても、まさか計測オーバーで機械を壊してしまうだなんテ。規格外の逸材でス』
水面下でそれぞれの思惑が行き交う。
「そういえば、検査項目が多い気がするんですけどこれって何か意味があるんですか?」
率直な意見として、まさかお昼を回ってまで健康診断を受けることになるとは想像していなかった。学園でやったのは身長体重に視力・聴力程度であり、ここまで厳重にされると、自分の体に何か異常があるのではないかと疑ってしまう。
「うーん、そうですネ。ここだけの話なんですけど、今際さんって能力の発現がまだ見られないですよネ」
アイリが調子を変えずに話をする。あまり申し訳なさは感じられないが、一応の配慮はしているつもりなのだろう。
「……そうですね、私だけですよね」
「まあ、入学基準的にはあくまで能力者であることを示す値さえ出てればいいのでそれで大丈夫なのですが、やはり私たちも少し気になりまス。そこで、この際健康診断の再検査のついでに色々調べちゃおうとしてまス」
インフォームドコンセントが全く守られていない発言にソラは少々眉をひそめるが、自分自身も気になっていることの原因がわかるのであればそこは飲み込もう。
『でも、そんなんだから学生から胡散臭いって思われるんじゃないのかな?』
「何か言いましタ?」
「いいえ。ちょっと事前に教えて欲しかったなと思っただけです」
「私もすっかり話した気でいて、今際さんに言われてから思い出しましタ。申し訳ないでス」
足を止めて深く頭を下げるアイリ。
「そんな、そこまで気にしないでください」
まさかの平謝りに戸惑うソラ。
「いえ、これは私のけじめですかラ。では、次の検査室に到着しましたし、始めましょうカ」
アイリによって開けられた扉の向こうに、ソラは飛び込む。
「では、その中央の台に横になってくださイ。しばらく安静な状態デ」
そうは言われても、これから何が起こるかよく分からない空間で横になって落ち着けと言われても、無茶な話である。無意識のうちにソラの鼓動が高まる。
「機械が動きますけど、触らないようにお願いしまス」
アイリの言葉の直後、天井部からアームのような機械が動き出す。
『ちょっと、怖い』
切実な感想である。一方、アイリは手元のタブレット端末に目を落とす。
『心拍数が上がっている以外はごく普通の能力者と変わらない値でス。どうやらこの機械では原因の解明は出来なそうですネ。それにしても、先程の値は改めて見てもすごいですネ。PHP48,000越え、世界中探してもいないんじゃないんですカ?』
互いに鼓動が高まる両者であるが、その要因は全く違うようだ。




