規格外の正体(10)
午前の部が全て終了し、ひとまずベンチに帰ることとなる。ウチで予選を突破したのは、棒高跳と走高跳からそれぞれ一人ずつだけだった。まあ、決勝に進むのは大変らしい。肩を落とす三人を横目に見ながら、夢路はせっせと荷物を運ぶ。パンフレットで確認したところ、今から一時間の休憩を挟んで午後の部が始まるみたいだ。そういえば昼食の手配はどうなっているのだろうか?
「夢路くん、ひとまずお疲れ様。適当に休憩取ってね」
木野下は手をヒラヒラ振ってどこかに向かっていった。夢路も荷物を全部下ろして、大きく深呼吸をする。そして、まだ折り返しということを忘れないでおこう。
「思っていたよりも、ちゃんと働いてるみたいだね」
振り返ると、柊と桐生が立っていた。
「まあ、人並み程度にはな」
夢路は思っていたよりも、細々とした仕事が多いという印象を受けた。
「ほう。どうやら記録をつける係だったみたいだな」
本当にナチュラルに人の心を読んでくるな。柊の独特のコミュニケーションに夢路は少し目をすぼめる。
「リュウはどの競技の担当だったの?」
「走高跳と棒高跳。それぞれ一人ずつ予選を勝ち抜いていたぞ。お前はどうだったんだ?」
「個人はちゃんと決勝に進んだよ。リレーは予選自体が午後からだから分かんないけど」
やっぱりマキは強いらしい。柊はどうだったのだろうか。
「私も午後から決勝だ。あいにく長距離選手だからリレーには参加しない」
「柊さんの出場種目は、千五百メートル走ね」
へえ、長距離走か。しんどそうだな。それはひとまず置いておいて、腹が減った。何も聞いていないが、まさか昼抜きで働かされる過酷な労働環境なのだろうか。そういえば、こっちは朝も食べていない身だ。流石にこれから食べずに仕事をしたら、ぶっ倒れてしまう。夢路は己の体調に関して適切な評価を下す。
「安心してくれ。ちゃんと昼食は用意されている。多分、今いないマネージャーの何名かが取りに行っているのだろう」
先輩が走っていったのはその為か。俺にも声をかけてくれれば手伝ったのに。
「君の頑張りを認めて、少しは休んでもらおうという配慮だろう。コノミはそういうところで無駄に気を使うから」
無駄に、と言い切ってしまうのが柊らしいな。確かに夢路からしたら要らぬ気遣いだ。
「はーい、今からお弁当配りまーす!」
雑談をしていると、木野下と他数名のマネージャーが大きなトレイに載せて運んできた。待ちに待った食事だ、と言うように一瞬で長蛇の列が作られる。
「私達も並ぼうよ」
「そうだな、やっと今日食べ物を口にできる」
「あ、そっか。リュウ朝食べる時間なかったんだね」
ったく、なんで朝四時に起きて時間が足りなくなるのだろう。出発が早すぎるのが原因か。心の中で愚痴を唱えていると、いつの間にか弁当を受け取っていた。時間もあまりないし、早く食べてしまおう。周りの雰囲気もそんな感じだった。午後に競技がまだ残っている選手にとって、食事にあまり時間を割きたくはないのだろう。夢路が食べ終える頃には、ほとんどの人がもうストレッチなりアップなりをしていた。
「そういえば、リュウの夢はまだ起こってないの?」
マキが体を床にべったりつけて体を伸ばしている。意外に柔らかいんだな。
「ああ、ドリンクに何か問題があるやつか。少なくとも、俺の周りではそんなことなかったな。お前の方でも、何も耳にしていないのか?」
「うん。私が飲んだのは普通のだったし、他の子も一緒だったみたい」
なら、事件は午後に発生するとみて間違いないか。
「ねえ一つ思ったんだけど、今回の事件って誰かのイタズラが原因ってことはあり得ない?」




