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中途半端は大変です!  作者: 平下駄
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規格外の正体(9)

 午前九時。ソラは正門で外出記録を記入して、麓まで続く長い坂を降りる。校舎や寮が山のてっぺんに造られている関係上、こうして外に出る時はわざわざ傾斜のきついこの坂を往復するのは何とも億劫なことである。帰りは文字通り足が棒になっているのだろうと思うと、ソラは今から疲労感を覚える。しかし、とりあえず目の前は下り坂だ。帰りのことは置いておいて今は下のバス停に向かおう。


 ソラが到着するのと同じく、バスが到着する。この麓のバス停はかなり利用者が限られており、せいぜい街に繰り出す桜坂学園の生徒くらいなものである。そのため、一本乗り逃すだけで数時間待たなければならない事態になってしまう。危なかった、バスの到着は遅れてくるものと考えて少し油断していたらこれだ。


 今度からはバスを信頼して早く来るようにしよう。と思うソラであったが、早く来た時には時間通りに来ないのが世の中の不思議なところである。タイミングの良いシンクロニティなど、中々体験できるものではない。


『先輩、部屋にいなかったけどちゃんと起きたんですね』

 バスの車窓をぼんやりと眺めながら、ソラは空っぽだった夢路の部屋を思い出す。昨日起こしに行ったときも部屋の鍵が空いていたが、もしかするといつも掛けていないのだろうか。大方本人に言うと「盗まれて困るものなんて何もない」などと宣うのだろう。実際夢路の部屋は何もない清貧な部屋であるが、それとセキュリティ意識はまた別の話だ。


『そういえば、こうして街の景色を見るのは入学前以来か』

 ソラが今見ているのは杉並町という街であり、桜坂学園のお膝元と呼べる。普段こうして中々下に降りてくる機会がない寮生にとって、普通の街も新鮮に感じる。校則によって、外出記録を書かなければまず外に出ることはできないし、その外出目的もしっかりと調べられる。


 許可がなければ外に出られないため、ソラのような真面目な生徒が学校を離れるのは、何かの行事か長期休暇の帰省くらいである。そのため、今日は束の間の解放とも言える。


「次は、国立桜坂病院前です。お降りの方はお知らせください」

 バスのアナウンスに従い、ソラは近くの降車ボタンを押す。これが今日の目的地「国立桜坂病院」の最寄駅である。ソラは肩に力を入れる。夢路の忠告、そしてミナミの噂。どちらも肝に銘じながら挑もう。


 ソラが運賃を払い、バスから外に出る。目の前の建物は、見上げるほどに大きい。流石は国立の病院である。ここで何が行われているのか知らないが、少なくともミナミの話にあったような生臭さは感じない綺麗な建物だ。


『こんな立派なところで再検査してもらうなんて、なんかちょっと気が引けるな』

 たかが学校の健康診断の延長で入るには些か勇気が必要である。


「おや、あなたは今際さン! どうしてこんなところニ?」

 声を掛けられて振り返ると、そこには白衣を来た見知らぬ女性が立っていた。若干のカタコトさに戸惑いながら、ソラは相手の顔を見る。


「えっと、すいませんどちら様ですか?」

「おお、何と悲しイ。お互い貧しいながらも苦楽を共にしたあの頃のことを、忘れてしまったのですカ」

 目の前の女性は、顔に手を当てて残念がる。


「あの頃?」

 心当たりがないため、ソラはさらに困惑する。

「とまあ、冗談はさておキ。初めまして。私は超研会学生支部で代表を務めておりまス、アイリと申しまス」

 アイリは頭を下げて丁寧に名乗った。


「アイリさん、どうして私の名前を?」

「あなたの今日の検査の案内を頼まれていましテ。この広い病院に慣れない一年生が一人というのは大変でしょウ。もしかすると、迷子になるだけで一日が終わってしまうかもしれませン。そうならないように、今回私がご一緒しまス」

「いいんですか、わざわざ」

 ありがたい申し入れであるが、たかが検査に案内人とは随分と大仰な話である。


「大丈夫ですヨ。本音を言えばこの病院は私たちの上司みたいなもので、命令されたら逆らえませン。それに、病院側も少しでも学生へのイメージ向上を狙っているのでしょウ。実際、ウチって評判悪いでショ?」

 ミナミの話を聞いていたので納得する。なるほど、草の根活動というわけだ。


「そういうことならお願いします」

「ええ、ぜヒ。こちらもそうしてもらえるとありがたいでス。では、早速行きましょウ。色々後がつかえてますかラ」

 アイリに案内されるのに従って、ソラは病院の中に入っていく。


『一人で少し不安だったけど、何とかなりそうだな。アイリさんもいるし』

 夢路は昨日きちんと忠告するべきだった。気をつけるべき相手には、病院だけでなく超研会も含まれていることを。言葉足らずなのが仇となってしまった形である。


 そんなことはいざ知らず、ソラの足取りは軽い。何ならスキップできそうなくらいだ。

『とりあえず、第一段階は成功ですネ』

 ソラの先をいくアイリの顔は、まさに獲物を狙う狩人のそれであった。

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