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中途半端は大変です!  作者: 平下駄
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規格外の正体(8)

「ただ今より開会式を開始します」

 一堂が拍手を送り、ついに大会が始まった。といっても、裏方のマネージャー陣は式には参列せずベンチに控えているだけだが。優勝旗返還や大会長の挨拶、そして諸注意が述べられ、式は滞りなく終了する。もらったパンフレットで確認すると、競技の開始は九時からのようだ。複数の競技の予選が同時に行われるらしい。夢路はどの競技を担当すればいいのだろうか疑問に思う。


「夢路くん、パンフレット確認した?」

 木野下がカメラやバインダーなどを担いでいる。

「ええ、さっき。どの競技に行けばいいですか?」

「とりあえず午前中は私についてきて。早速だけどドリンクとタオルを適当に運んで」


 適当に、というオーダーが中々難しいが、二三あれば十分だろう。夢路はベンチ前から言われた品を取り出し、すでにグラウンドを横断している木野下の背中を追った。そのまま導かれるように進むと、高いバーと四角いクッションが置いてある所にいた。おそらく、ここで今から行われるのは高跳ということだろう。


「後、これも見といて」

 そう言われて渡されたパンフレットには、何人かの選手にマーカーが引いてある。ウチの生徒というわけか。それから分かるは、走高跳に二人と棒高跳に三人の選手が登録されていることだ。まず日程的には、走高跳の方かららしい。夢路と木野下が荷物を置いて陣取っていると、何人かの選手がこちらに近づいてくる。ユニフォーム姿からはどこの高校か判別できないが、この状況ならウチの生徒で間違いないだろう。そういえば、どこかで見たことのある顔な気もする。


「皆、調子はどう?」

 木野下が口を開く。

「まあ、やることはやったよ」

「ボチボチだな」

「今日は俺の自己新記録を打ち立てる」

 全員返答がバラバラだ。これも陸上の個性なのだろう。


「一番手は高田からだから、ちゃんと今のうちからアップしといてね」

「オッケー。そこら辺で手は抜かないさ」

 軽いやりとりを済ませると、木野下はカメラとストップウォッチを手に取る。


「夢路くん、今から記録をつけていくから、そこのバインダーとペン持ってついてきて」

 そんなことまでマネージャーの仕事なのか。しかも記録をつけるといっても、他校の選手のまでやるとは。こりゃ人手がいるわけだ。木野下がテキパキと三脚を立てて、そこにカメラを設置する。そしてストップウォッチを右手で握りしめている。


「今から選手がジャンジャン飛んでくるから、夢路くんは私が言った数字をそこにメモしてって」

 バインダーにあらかじめ挟まれていた紙は、各選手の名前と、いくつかの数字を書き込める欄が存在する、表のようになっていた。


「分かりました。ここに書いていけばいいんですね」

「うん。今のところで何か質問ある?」

「うーん、一つ気になったのは先輩は何でストップウォッチを持っているんです? 高跳にはあまり関係ないように思うんですけど」


 高跳はあくまで高さを競うものであって、バーを越すのにかかった時間など、記録する意味などないのではないだろうか。

「それがそうも言ってられないのよ。私達マネージャーの仕事には、アナリストの役割も含まれているから」

 アナリスト、どこで聞いたような単語だ。確か、バレーボールだったような。


「ああ、アナリストっていうのは分析家って意味ね。どんな些細なことでも、きちんとデータ化することで、少しでも選手の記録を伸ばすのに使えるかもしれないからね。一見意味のないことかもしれないけど、データ化して初めて見えてくるものもあるんだよ」

「具体的にはどんなのがあるんです?」


「この高跳において、選手がスタートからバーを飛び越えるまでの時間というのは、一流選手と一般の高校生とを比べると、かなり差があるものなの」

 なるほど。冷静に考えると、高く跳ぶことのできる選手は脚力が強いということであり、それに伴って足も速いのは当たり前か。


「そんな意味があったんですか。意外に分析も奥が深いですね」

「うん、まだ発展中の分野でもあるからね。その分伸びしろがあるとも言える」

 こうして実際に体験してみると、マネージャー業も興味深いものだな。ただ選手のサポートをするだけの仕事だと思っていたが、少しは楽しめそうだ。夢路の頭が少し稼働する。


「お、始まるね。ちゃんと漏らさず書いてね」

「了解です」

 このデータの一つ一つが、積み重ねられることで意味を持つのはよく理解したところだからな。その後、夢路は与えられた仕事をきっちりとこなす。

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