規格外の正体(7)
「全員揃ったな。では、今日の打ち合わせを始める」
下平が部員全員を円形に集める。夢路も一応顔だけ突き出しておく。
「えー、まず今回の大会は——」
長くなりそうなので、このくらいにしておこう。どうせ俺が聞いても何も得がないだろうし。適当に周りの雰囲気に同調してやり過ごそう。眠気が少しずつ強くなっていく。話を全く耳に入れないようにしているのにこうなるのか。
下平、指導者としては大したことないらしいが、噺家としては中々腕が立つみたいだ。俺以外のやつはちゃんと起きているのだろうか。話を聞いているのなら尚更眠いだろうに。しかし夢路の予想とは違い、皆の顔は真剣そのものだ。やはりこの大会、決して軽いものではないらしい。ここまで本気の雰囲気を皆で共有しているのだから。下平の話の腕もまんざらではないのかもしれない。
「よし、全員円陣組むぞ」
最後に下平が言った言葉がはっきりと耳に割り込んできた。てっきり解散するものだと思っていたのに。よりにもよって円陣とは、少し時代遅れな気もする。まあ、それで一体感がさらに強まるのなら否定する必要はないか。早速、監督や選手、そしてマネージャーと見習いの夢路も一つの円を形成する。
「桜坂ー!」
ファイトー!
ちゃんと決まった掛け声あるなら、事前に教えといてくれよ。おかげで完全に夢路だけ出遅れてしまった。
「では、これから開会式だ。選手は全員グラウンドに集合してくれ」
はい! とまた息の合った大きな返答。そして選手達はそのまま開会式へと向かっていった。さて、マネージャーはこれからどうするのだろうか。形としては、ベンチに取り残されたようにも見える。
「じゃあ、私達も準備始めるよ」
今度は木野下が音頭を取る。荷物運びの次は、一体何をするのだろう。夢路はてっきり次の指示が出されるものだと思い、待機していた。しかし、他の部員はせっせと手を動かしている。まずい、また出足が遅れた。
夢路は周りを観察する。タオルやドリンクを出している人とタイム等の記録を記す用紙やそのためのストップウォッチやカメラを準備している人の大きく二つのグループに別れている。カメラなどの扱いは万が一の場合があり得るので、夢路は大人しくドリンクをベンチの手前側に運ぶ仕事を選択する。
結局は、さっき会場まで運んできたクーラーボックスを選手がベンチに帰ってきた時すぐに渡せる位置へ運ぶだけの作業だ。大して時間もかからず、この仕事は終了した。他の仕事も、セットアップが完了している気配だ。なら、後は開会式を眺めているだけということでいいのだろう。
「これで一応始まる前の準備は全部できたから、ちょっと休憩ー」
木野下の言葉で、皆が少し元気になる。いや、ザワザワするというか少しうるさくなるというか。まあ、やる事が全部片付いているのなら、何をしようが問題はないだろう。
夢路は空いているベンチを一つ拝借し、身体を一の字に伸ばした。仰向けで寝っ転がっているため背中や肩に、ベンチのプラスチックの硬さが伝わってくる。だが、そんなものに屈するほど夢路は柔な人間ではない。あいにくどこでも寝れる身体の持ち主だ。
目を閉じると、すぐに意識が遠くなる感じがする。これは、スッと眠りに入れる良い状態だ。そう確信し、俺はどんな夢を見るのか、と少しだけ期待をして意識を完全に手放した。
「えーっと、夢路くん? そんなに堂々と天井を見上げてどうしたの?」
しかし、手放す前に声が聞こえてくる。ゆっくり目を開くと木野下が立っていた。そして今、さっきの言葉の意味、意図を一瞬で理解する。
「自由時間ですから。こうして次に備えて休養を」
「でも、さすがにベンチを一人完全に独占して寝ているのは見過ごせないね」
予想通りそういう意味の注意か。
「他校の目もあるんだから、そういう姿をするのは控えてね。私達は、学園の代表としてこの場にいるんだから」
夢路は至極まともなことを言われてしまう。確かに学園の名前を背負ってこの場にいる以上、あまり軽率な行動はしない方が良いだろう。しかし、俺は一日限りのマネージャー見習いだ。それに、能力の副作用で一日の半分寝ないといけないのだから、このくらい許可してほしいという気もする。だが、ここでこれを熱弁しても、あまり効果はないだろう。俺は何も言わず、上体を起こしてきちんと座り直す。
「うん、それで寝るのなら全然構わないから」
え? 寝るのはいいのかよ。単なる格好の問題だけか。再び夢路はゆっくりと意識を手放す。




