規格外の正体(5)
朝七時三十分。今際 空は目覚まし時計の音に起こされる。
「おはよう、ミナミ」
「おはよう、ソラ」
同室の住人と挨拶を交わして、朝の身支度を始める。そういえば、先輩ちゃんと起きられたのだろうか。今日は陸上部の応援に行くはずだが、ひょっとすると目覚めないから置いてかれたなんてこともあり得る。ミナミに昨日聞いたら、この学園は山の中の辺鄙なところにあるから、部活の大会なんかは特に早起きするらしい。昨日日直をするためだけにあれだけ苦労していた男だ。一応後で部屋を見に行こう。何とも健気な後輩である。
しかし、あの日はせいぜい一時間程度早起きしたくらいの割にずいぶんと寝ていた。まるで寝だめでもしているかの如く。もしかして、初めから大会に行くつもりだった? いやいや、先輩はそこまで殊勝な人じゃないか。
身支度と同時に自分の先輩の酷評まで済ませると、ソラは朝食を摂りに寮食堂へ向かった。
「ソラ、今日の病院は大丈夫?」
「うん。十時からの診察だから余裕だよ」
二人は向かい合って食卓を囲む。
「にしても、再検査で休日に呼び出しなんてツイてないね」
「でも、何されるんだろう。先輩は気をつけろって言ってたけど、ミナミ何か知ってる?」
一年生ながら耳の良いミナミを頼ってみる。
「どこまで事実に基づいてるか分からないけど、超研会は生徒の間でかなり評判悪いね」
バッサリ一刀両断する。
「能力者のことを実験体だとしか思っていない血の涙もないとか、あくまで興味があるのは能力だけでそれがここの入学基準に直結しているとか、やつらは密かに人体実験をして、真の超能力者を生み出してるとか。流石に最後のはSFの見過ぎって感じだけどね」
いずれにしてもあまり心地の良い話ではない。しかし、夢路がこの手の噂を盲信するような輩かと言われるとソラはNOと断言できる。やはり、ソラが知らない確執が一年前に起こったのだろうか。
「おっと、私そろそろ練習だから行くね」
「うん、頑張ってね」
ミナミは手を振って足早に去っていく。
「私も準備するか」
ソラはゆっくりと立ち上がり、トレーを片付ける。あ、その前に先輩の部屋見に行こう。
***
プシュー、という風な音が聞こえる。バス特有の、空気圧的なものを調整する時の音だ。これが聞こえるということは、今は停車中というわけか。まどろみの中で夢路は冷静に分析する。
「リュウ、起きて」
小さな声で桐生が耳打ちする。なんだかんだでしっかりものだよな。ちゃんと到着前に起きてるし。
「はいはい、降りますよっと」
夢路自身の荷物は何もないので今は身軽だが、これから朝運んだクーラーボックス等をまた担がなければいけない。はあ、肩が重そうだ。でも、泣き言言わず頑張るか。バスの車外で深呼吸をしながら伸びをする。どのくらいバスに揺られていたんだろうか。そういえば、この後のタイムスケジュールとか控えのベンチの場所とか、何も教えられていないな。
「全員ちゃんと降りたな。では、これから会場に移動する」
下平が皆にそう伝える。何名かゾロゾロとその後をついて行く。おっと、俺はその前に荷物を持ってかないとな。夢路が小走りで向かうと、木野下をはじめとするマネージャー陣がすでにバスの周りに集まっている。慣れている分段取りが早い。
「夢路くん、クーラーボックスいくつくらいいけそう?」
「四つは大丈夫かと。多少無理すればもう一個くらいなら」
「お、頼もしいねえ。じゃあ、多少無理して五つでお願い」
「了解でーす」
この人、案外スパルタなのかな。自分で言った手前仕方がないが、四つが良かったなあ。夢路は宣言通りクーラーボックスに手を伸ばす。右に三個、左に二個でいけるだろう。バランス的には左にもう一つあった方がいいのだろうが、あまり重さをかけて無理はしたくない。肩に乗せていると動くたびにガタガタ音が鳴るが、気にしたところで静かになるわけでもないので、普通に歩く。
周りには、同じようなジャージを着た生徒達が何十人と会場に移動しようとしている。緊張を顔に表している者や眠気がまだ残っている者、やけに威風堂々としている者など、様々な連中だ。でも、それは当たり前か。陸上、と一括りにされているが、その中の競技はいくつにも分けられている。百メール走や二百メートル走、砲丸投げや槍投げ、走高跳や走幅跳など挙げるだけでもキリがない。それに合わせるように、競技者も多種多様だと考えると納得がいく。




