規格外の正体(3)
「よし、じゃあ皆これで全部準備できたね」
夢路が軽いものを抱えると、木野下さんが音頭を取る。タイミングよく、マネージャーの方も準備完了というわけだ。食堂の灯りを消して、皆が静かに外に出る。そういえば、今はまだほとんどの生徒が寝静まっている時間帯だったな。そんなことをすっかり忘れて、ドタバタ動いてしまった自分を少し反省する。
「では、これから全員バスに乗ってもらう。大会時の心構え等は、会場についてから詳しく話す。どうせ今聞いても、半分寝ぼけているのがほとんどだろうからな」
夢路はさっさとバスの中で寝たいので、下平のこの配慮には素直に感謝する。心構えにもさして興味はないし。下平の言葉が終わると、バスの中に部員達が一人ずつ乗り込んでいく。
そういえば、マネージャーも合わせると結構な人数になるはずなのに、このバス一台で全員乗り切れるのだろうか。そりゃ、ちゃんと大型バスで手配しているのだから大丈夫なのだろうが、体感的には人数オーバーのように感じる。
「あ、リュウは私の隣ね。空席なく座らないと、皆乗り切れないみたいだから」
桐生のこの発言から、夢路の予想はあながち間違いではなかったということだろう。やはり、人数ギリギリの座席数なのか。
「了解。どうせ寝てるだけだからどこでもいい」
指示があるのなら、通路で寝たっていい。むしろ、手足を伸ばせて快適かもしれない。いや、でも流石に床にしては硬すぎるか。夢路は人の流れに身を任せていると、いつの間にか桐生の隣の座席に座っていた。これは、半分意識が寝る体勢に入っていることを表しているのだろうか。そんな疑問をよそに、バスがようやく走り出す。前と後ろの座席を確認するが、確かにすし詰めだった。
「そういえば、今日はどんな夢だったの?」
「こんなときにする話か?」
大会直前なのだから少しでも休養を取るとか、集中力を高めるとかした方がよっぽど身になりそうなものだろう。
「いつもの癖というか、ルーティンみたいなものじゃない。起きてたら教室で話してくれるしさ」
そう言われればそうだな。実は一番力を出せるのは、普段と変わらない習慣をすることなのかもしれない。変に気を張る方がかえって逆効果になることも多そうだし。これからの仕事に備えて少しでも寝たいが、たまにはコイツのために一肌脱いでやらないとバチが当たりそうだ。ここはいつものやつを提供してやろう。
「今日の夢は、お誂え向きに陸上部員、それも選手に起こる不幸だった」
「へえ、そこまで分かってるんだ。というか、今日も朝から縁起悪いね」
「こっちも見たくて他人の不幸を予知してるわけじゃねえよ。ただ、朝に見るのが異常に多いだけで」
「で、不幸の内容は?」
「そこがはっきりとしてない。夢の主は、自分のチームのベンチに戻る。そして、そこにあったスポーツドリンクの一つに手をかけ、口をつける。ここで、夢は終わった」
「んー、中途半端だね」
それもいつものことだから仕方がない。
「実際どうなんだ? 選手であるお前がベンチに帰ってきて、スポーツドリンクを飲もうとする時に想定される不幸は何がある?」
夢路では分からない目線を桐生は少なからず持ってはいるはずだ。そこからヒントくらいは見出せるだろう。桐生は頭を傾け、目を閉じている。しばらくして、口を開く。
「まず単純に中身が空だった、とかは?」
「なるほど、すでに他のやつが手をつけていたというわけか。他には?」
「後は、なんだろね。思いつかない」
おいおい、しっかりしてくれよ。
「飲み物が別のものに変わってたりとか、温度が適温じゃなかったりとかは多分ないと思う」
「なんでそこまで言い切れるんだ?」
「だって、それはマネージャーの管轄だもん。選手が飲み物を用意するわけでも、会場内で管理するわけでもないから、そんな失敗はまず起こらないよ」
分業でかつ、ベテランのマネージャーが行うのだから間違いないということか。確かに納得のいく理論だ。……待てよ、今日のマネージャー陣には一人、完全な素人が混じっているじゃないか。まさか、コイツが今日の夢の原因をつくっているのかもしれない。可能性は大いにあるな。夢路は自分の胸に手を当てる。




