屋上からの失踪(終)
「いやー、ついさっきまでどうなることかと思ってたけど、無事解決したね」
三人は、探偵部の日誌をつけるために一度部室に戻ってきた。
「そうですね。しかし、ファンっていうのは難しいものです」
ソラはしみじみと呟く。
「結局どういう奴のことを言うんだろうな? 少なくともあれじゃないのは分かるけど」
夢路はベッドに体を預けている。
「うーん、本人のことを第一に考え、自己犠牲もいとわない人、とかになるのかな?」
「おいおい、それじゃあ危ない宗教信者みたいじゃねーかよ。まあ、面倒くせー奴らってことか」
その人に自分の夢を託す人、その人を見るだけで幸せだと感じる人、その人を自分の分身だと思える人。こんな人達をファンと言うのだろうか? ソラは日誌を綴りながら考える。
「そういえばよ、お前ユニフォームって一枚しかないわけ? 予備のがあれば別に今日必死に探さなくてもよかったんじゃないのか?」
「ちゃんと予備もあるけど、大事な試合の時はあれって決めてるのよ」
「ったく、面倒くせえな。別に変わんねえだろそれくらい」
今日の頑張りが徒労のように思ったのか、夢路はそっぽを向く。
「変わりますー。メンタルってのは大事なのよ。応援するのはメンタルに力を与えるためだし」
「応援ねえ。よし、じゃあ明日行くか。本当にそれでタイムが上がるのかこの目で確かめたくなった」
「本当に!? どうせパスかと思った」
たまにはいつも朝世話になっている礼でも返しておこう。
「でも、別に頑張んなくていいぞ。テキトーに気抜いて二回戦くらいで負けて、さっさと俺を帰らしてくれ」
周りが桐生に対して期待の言葉をかける中、夢路だけはマイナスの言葉をこぼす。
「……やっぱり、あんたはやさしいね」
夢路は何も返事しない。
「ソラちゃんは、明日何か予定あるの?」
桐生は振り返って、ソラを見る。
「何もなかったら私も応援行きたかったんですけど、実は健康診断の再検査があって」
「再検査、ってどこか悪いところでもあるの?」
「いや、そういうわけではなさそうなんですけどあまり正確に値が出なかったとかで」
「なるほど、それはついてないね。おっと、私明日の支度しないといけないからこれで。ソラちゃん、またね!」
足早に駆けていく桐生。今日一番の動きかもしれない。そして、部室には二人。
「……明日の再検査、月曜にでも詳しい話聞かせてくれ。どんな些細なことでもいい」
夢路は上体を起こし、目を合わせる。
「いいですけど、何か気になることが?」
「あるかもしれんし、ないかもしれん。チビ助、気をつけろよ。やつらは隙あらば動いてくる」
ソラはこの時、夢路の言葉の意味を全ては理解出来なかったが、背中で何かが這いずり回るような悪寒を感じた。
『やはり、あいつらは何か隠してやがる』
「いよいよ、明日ですネ」
「ええ。きちんと手筈は整っています。あとはお願いしますよ、アイリさん」
「はイ。かしこまりましタ、先生」
二人の思惑はどこに向かうのか。




