屋上からの失踪(11)
「おいおい、そんなあからさまに残念な顔しないでくれよ。俺だって、自分が同級生のユニフォームを授業中に堂々と盗む変態野郎扱いはゴメンだぜ」
しかしそう言われても、唯一今日コンタクトを取れる容疑者が犯人候補から外れてしまったのだ。そりゃ、落ち込みたくもなる。
「そういえば、鬼丸さんの能力って何なんですか?」
ソラはちょっと興味本位で聞いてみる。もしかすると、今後の参考になるかもしれない。
「俺の能力? あんま大したもんじゃないぞ。『スティック』っていう、九十度以下の壁なら手の平でひっつくことが出来る能力だ。けどそんなもん、普通じゃ使わないから、ちょっと使い方を変えてる」
「どういう風にですか?」
名前まで付けていて、しかもこちらに誘導尋問を促す。これは自分ではあまり大したものとは思ってない人間の行動だろう。
「要するに俺の能力は、手の平が九十度以下の角度なら、自分の体重を支えれる程の引力が持てるってことだ。だから柔道で組んだ時、こっそり使うと実質握力が増えたようになるんだ」
そんなイカサマを告白されてもしょうがないところはあるけど、自分の能力をよく理解している使い方だとも思い、ソラは少し感心した。……待てよ、ということは。
「壁に張り付けれるんですよね。じゃあ屋上に行っても、バレずに降りるのも可能ですよね?」
「ああ。でもそれだと結構時間かかるから、もしかしたら誰かに見られるかもな。まあ、俺はアリバイあるから関係ないけど」
「はあー、ですよね。ありがとうございました、私たちはこれで失礼します。練習中お邪魔しました」
これ以上は何も聞き出せないと考え、ソラは撤収に入る。
「平気平気。それよりもそっちの方が大変でしょ。大会明日だっけ? なんたって、陸上部の大エース様だもんな」
「私は、そんなに大したことないですから……」
桐生は謙遜なのか、小さく答える。ソラは心なしかいつもよりも影が落ちているように見える。
「冗談だろ、それ。全国行ってるやつがそんなわけないじゃないか。まあ、俺は何もしてやれないけど頑張って探してくれよ」
こうして鬼丸さんを後にするソラと桐生。ちょうど外に出たら、タイマーが再びピーっとなった。休憩は終わったらしく、またマットを叩くような音が聞こえてきた。
***
「さて、これからどうしましょうか?」
行くあてを失い、二人は立ち止まる。
「もう行くところもないし、とりあえずまた保健室に戻ろっか」
「そうですね。しかし、誰が持っているんですかね?」
「うーん、残りの三人の誰かだと思いたいけど。保健室のリュウを叩き起こして一回聞いて見るか」
「ですね。先輩、何だかんだ寝起きが一番頼りになりますから」
午後の、とはあえて言わないソラ。
「はあ、山田先生はいい人だけど一度心配し始めると面倒くさいんだよね。陸上部だから何回かお世話になってるけど、いつもあんな調子で」
「悪い人ではなさそうですけどね。大根を正宗で切るって感じですか」
ソラは廊下に掛けてある時計が目に入る。まだ五時にもなっていない。これは起こすのに苦労しそうだ。
そう思って保健室に行くと、何と夢路がベットの上で座っている。目が覚めているのだ。
「リュウ! どうしたの? あんたがたった一時間の睡眠で満足してるだなんて」
「今のはあくまで早起き分の補填だからな、そりゃ短いさ。それより、鬼丸の方はどうだったんだ? 大方、アリバイがあったか、屋上から脱出できる能力じゃなかったかのどっちかだろ」
夢路はまるで一緒に話を聞いていたかのような物言いである。
「はい、病院にいたっていうアリバイがありました」
「あと、能力はなんかよく分かんないけど、壁に張り付くのを応用して握力を強化するのらしいよ。で、何で鬼丸くんが犯人じゃないの分かったの?」
今度は夢路の番である。
「よくよく考えてみりゃそうだろ。いくらなんでも、出席状況を確認したくらいで犯人ってバレるような甘っちょろい犯行は、普通しないはずだ」
「言われてみればそうかも」
桐生は合点がいく。




