屋上からの失踪(10)
「ねえ、なんで鬼丸くんを探しているの?」
今度は小柄な人が話しかけてくる。そのまま雑談を再開してくれたらいいのに。
「私もよく分からないんですけど、職員室に行ったら悪いけど探して来てくれって言われて……」
咄嗟に考えた言い訳としては、我ながらナイスなものだったとソラは一人感心する。こう言えばこれ以上聞いてはこないだろう。
案の定、彼女はそう……、と答えただけで他に何も質問してこなかった。
***
教室の扉を閉めて、二人は言われた武道館に向かう。
「ソラちゃん、ナイスな言い訳だったね」
「ありがとうございます、とにかく必死だっただけなんですけどね」
「いやいや、見事だったよ。私だったら正直に、自分のユニフォームを盗んだ変態野郎を探しているなんて言っちゃってたかも」
「それ言ったら、あの三人はどんな顔をするんでしょうね」
ソラはあまり口には出したくない雰囲気が流れる想像をした。その瞬間、桐生が突然歩みを止める。
「……待てよ。今から私たちは武道館に行くよね」
「そうですね」
「ということは、これから鬼丸くんと三人だけで盗みのことについて話し合うってことだ。もし鬼丸さんがリュウの言うように、本当に変態野郎だった場合それは……」
桐生が途中で言葉を止める。おそらく、それはとても危険な行為なのではないだろうか? ということを続けたかったのだろう。しかも相手は柔道部。まともに戦うことになったら、絶対に勝てない相手だ。
二人の間に、電撃のような速さで悪寒が走る。これはヤバイ、と本能が訴えかけてくる。普通ならこの状況は引くしかないと判断するだろう。しかし、人は虎の穴に入らなければ得られないものもあるのだ。そして桐生は一刻も早くそれを取り返したい。
「ソラちゃん、武道館には私一人で行くよ」
幸いにも自分は陸上部、走りには自信がある。もし最悪の事態になっても、逃走という最期の手段があるのだ。そう自分に言い聞かせる桐生。
「いや、二人で行きましょう。いくら何でも突然襲われるなんてことはないでしょうけど、二人きりよりもこちらの方が安全です」
二人は目を合わせる。お互いに覚悟が出来ているようだ。よし、ならば腹は括ったし、いざ出陣。震える足で前に進みながら、二人は武道館に向かっていった。
***
武道館に近づいていくと、バンバン床を叩くような音が徐々に耳に届いてくる。投げ技の練習でもしているのだろうか?
玄関までやってきて、扉を開けて中に入る。するとちょうど、タイマーのピー、という音が響く。さっきまでみんな、道場の辺りに集まっていたのにだんだんとばらけていく。休憩時間なのだろう。
チャンスと思い、桐生は声を上げる。
「すいませんー! 鬼丸くんって居ますか?」
みんなこちらの方を振り返る。数秒の間があったが、男の人が一人こちらの方へ寄ってくる。
「俺が鬼丸だけど、何か用?」
鬼丸は、柔道部ということで勝手にゴツい人だと二人は思っていたが、実際はそんなことはなく百七十センチくらいの普通の男子だった。
「実はお話したいことが……」
桐生は、耳を少々と言う具合でざっくりと盗難事件のことについて話した。
「……なるほど。事件が起こったのは三限目だから、それでその時間授業に受けていない俺のところに来たってことか」
「はい、そういうことです」
思っていたよりも簡単に話を理解してくれた。
「でも、残念ながら犯人は俺じゃないんだよね」
余裕のある笑みをこちらに向けてくる鬼丸。
「どうしてですか?」
ソラが即座に質問する。
「簡単だよ。今日の俺の遅刻は、病院に行ってたからなんだよ。だから朝から昼の一時くらいまで病院に居たんだ。なんなら、病院の人にでも問い合わせてくれよ。微能力者が国から指定されてるところだから、簡単に出てくるとはずさ」
なるほど。つまりは完璧なアリバイがあるということだ。これじゃあ、確かに鬼丸さんが犯人という線は完全に消えただろう。
「そうですか……」
ソラが少し下を向く。




