屋上からの失踪(9)
こちらに軽くウインクをして、山田先生はあっさり出席名簿と書かれたファイルを渡してくれた。中を開けて三限目の欄を見てみる。
一年二組山川 美穂。一年五組津村 優奈。二年三組鬼丸 剛。三年一組武藤 久美。この四名が欠席となっている。
「へえー、休みって意外にいるもんですね。三限目だけでも四人もいる」
ソラは初めての記録に驚く。
「けど、これでこの四人でほぼ決まりだな。あれ? この一年五組の津村って今朝の……ああなんだ、二限目終わりに早退か」
夢路は今朝出会った少女のことを思い出す。
「リュウ、この四人を今から尋問するってこと?」
「そうなるな。とりあえず、男の方から攻めたらどうだ? 確率的には高そうだし」
「オッケー。で、この中の男の人っていうと二年三組の鬼丸さんだけ。よし、後はこの人の能力が屋上から飛び降りれるのだったら完璧に犯人だね」
「能力を簡単に教えてくれるタイプならな。聞かれても絶対に答えない奴らもいるし、犯人だったら尚更だろ?」
ソラは頭の中でどのような質問を投げかければ、相手が自分の能力を話してくれるか考えを張り巡らせる。
「確かにね、それは注意点だった。でも、とりあえず会って話聞かないとね。じゃあ鬼丸さんの教室に、って休みだったね」
「いや、他の連中は早退だがこいつは遅刻になってる。五限目から登校してるみたいだな」
「ということは学校にいるってこと?」
「そうだろな。まあ、この時間じゃ部活でもしてんじゃないのか?」
時計に目をやると後数分もしない内に午後四時になりそうだ。
「と、言うこと俺は寝る。ちょうど四時にもなりそうだし」
「え? これからって感じですよ、先輩」
あまりの唐突な宣言にソラは理解が追いつかない。そんなソラのことなど気にせず、夢路は布パーテーションカーテンを勝手に開けて、ベッドの前に立つ。
「能力のせいでよ、俺は一日の半分、つまり一日十二時間睡眠を取らないといけない身体なんだよ。今日は日直の分早起きしたから、いつもより余分に寝ないと倒れちまう」
あくび混じりに夢路が説明する。ウルトラマンが三分しか戦えないのと同じように、夢路にももう活動限界が訪れてしまったのだ。
「えー! せっかく良いところなんですから、力振り絞って頑張ってくださいよ。今じゃなくて後で眠ればいいじゃないですか」
「いや、無理。先生、このベッド借りるわ」
そう言って、山田先生の返答すら聞かないで夢路は夢の世界に落ちてしまった。まあ、出席名簿を貸してくれたついでに大目に見てもらおう。
***
「え? 桐生ちゃん。彼ってもう寝ちゃったの?」
山田先生が目をパチパチさせて、こちらに顔を向ける。養護教諭ですら驚く寝付きの良さとは、もはや気絶と言っても過言ではない。
「ええ、もう寝てます。すいませんけど、ここで寝かしといてあげて下さい」
「良いけど、七時くらいまでね。それぐらいになったら保健室閉めちゃいたいから」
「はい、大丈夫です。多分その頃には起きてるだろうし。もし起きなくても叩き起こしますから!」
「まあ、頼もしいこと」
そういうことで、夢路は山田先生が保健室で預かってくれることとなり、ソラと桐生は鬼丸を探すこととなった。
***
「とりあえず、教室でも行ってみますか?」
ソラが行き先を提案する。
「そうだね。リュウは部活でもしているとか言ってたけど、まずそもそも彼が何の部活なのかも知らないしね」
二年三組の教室に着くと、三人の女子が教卓の前でたむろしていた。ソラは思い切って声を掛けてみる。
「あの、すいません。鬼丸さんって今どこにいるのか分かりますか?」
女子三人組は話をやめて、二人の方をじっと見る。多分、見たこともない後輩と陸上部の有名人のコンビが、どうしてクラスメートを探しているのか疑問に思うからだろう。
「部活なんじゃない。あいつ柔道部だから武道館にいると思うよ」
三人の内の長身の人が教えてくれた。
「ありがとうございます。じゃあ……」
ソラは静かに返事をして、消えるように教室を出ようとする。なんで鬼丸を探しているのか聞かれると、面倒くさくなるからだ。




