屋上からの失踪(8)
「陸上部の部員ねー。多分それはないかな」
「どうしてだ? 一番あり得そうだと思っていたんだかな」
桐生の口から、夢路も自信のあるの方を否定されてしまい、たまらず質問する。
『まさか変態野郎説を支持するのか? それはちょっと自信過剰じゃないのか……』
幼馴染からの率直な心配である。
「だってそんなことするような人、陸上部には居ないよ。それにそんなことをしたって出られるようになら人なんてせいぜい一人か二人くらいだし。というか、そもそも予備くらいは支給されるよ」
陸上部全体が清廉潔白なのかどうかについては、色々言いたいところはあるが、夢路はとりあえず今は無視することにした。
「マキさんの話を聞くと、確かに犯人は陸上部の人間ではないというのは正しい気もしますね」
ソラは犯人像について再び考察し始める。
「待ってください。先輩は先程相手は変態野郎、つまり男性であると言い切りましたよね?」
「そうか、マキの場合一概にそうも言えないのか」
夢路はソラの質問の意図を察する。桐生には普通の女子学生では絶対に存在しないファンクラブなるものがあるのだ。ソラが知る限り女性も加入していることを考えると、性別を決めつけてしまうのは危うい。
「この前のお返しって感じだな。確かに視野が狭まっていた。ありがとよ」
夢路はソラの方を向いて発言する。
「まとめると今日の三限目、欠席なり遅刻なりで授業に出席していない人が犯人ってこと?」
桐生は先程の夢路の発言を要約した。
「あくまで可能性が高い、だけどな。これだけ絞れりゃ、後はサクサクっとなるだろ。よし、じゃあ行くか」
夢路は立ち上がり、部室を勢いよく後にする。幼馴染のピンチには力を惜しまず発揮するということだろう。
『どこに行くのだろう?』
しかし、ソラは行き先について皆目見当もつかなかった。
***
「リュウ、どこ行くのこれから? 早く見つけて明日の準備しなきゃいけないんだけど」
夢路が先頭になって進んでいくが、後ろの二人は行き先が分からない。
「まだ四時前だし、そんなに焦らなくてもいいだろ。とりあえず、今日の全生徒の出席状況を知ろうじゃないか。保健室に行けば、簡単に把握できる」
「えー、保健室かー……」
あからさまに嫌がっている桐生。
「わざわざ職員室で、各クラスの担任に聞き回るより全然楽だろ?」
それでもまだ不満有り気な顔をしている。
「何でそんなに嫌なんだ? とにかく行くぞ。お前だって、さっさと見つけたいんだろ?」
「うん、そうだけどさ……」
「何かあるんですか?」
ソラにはどうして桐生が嫌がっているのか理解できなかった。
「まあ、行けば分かると思うよ」
何も説明が行われないまま、一行は保健室に向かう。しかし、桐生の足取りだけがやや重い。一体保健室の何が嫌なんだろうか。注射が怖くて病院嫌いの子どもはよくある例だが、保健室が怖い高校生とは如何に。
職員棟の一階にある保健室に辿り着いた夢路たちは、縦に並びながらドアを開ける。
「失礼します」
中へ入ってみると、白衣を着た女の先生が何か日誌のようなものを書いている。ソラは何だかんだ初めてこの学校の養護教諭を見た。
「どうしたの、ケガ? 熱っぽい? 風邪気味? もしかして病み上がり? あれ、桐生ちゃんどうしたのその膝! 化膿とかしてない? 絆創膏新しいのに張り替える?」
たかが保健室に来ただけで、これほど心配されるとは……。なるほど、マキさんが来たくなかったのはこれが原因か。この人はいちいち心配性すぎるみたいだ。
「山田先生。膝は別に大丈夫だから、とりあえず絆創膏しまって」
桐生が、救急箱を引っ張り出してきた先生を制止する。
「えっとー。じゃあどんな用で来たのかしら?」
夢路たちはざっくり事件のことについて、山田先生に話した。
「そう、それで今日の出席状況を確認したいって訳ね」
「はい。お願い出来ないでしょうか?」
「普通はこんなの生徒に見せちゃいけないのかもしれないけど、今は状況が状況だし勘弁してあげるわ」




