屋上からの失踪(7)
「ごめん! リュウ、いる?」
勢いよく扉が開くとそこには桐生が立っていた。よく見ると肩で息をしており、顔は切羽詰まった表情を浮かべている。
「よう、待ってたぜ。お前さん、一体何を盗まれたんだ?」
「陸上のユニフォーム。明日大会だから絶対に必要なの」
「なるほどねえ。それは目の色変えて探し回る訳だ。休み時間及び昼休みで探したところは?」
「寮の自分の部屋、グラウンド、更衣室、部室。私が持ち込む可能性のある場所は全部」
「でも、見つからなかった。そして、お前が今日体育の時に教室に帰った時、不審な人物を見かけた。おそらくそれが」
「今回の犯人、窃盗犯だろうね。はあ、あそこでちゃんと捕まえられていたらなあ。というか、分かってたんならどうして教えてくれなかったの?」
「今朝見た夢はどうやったって改変出来ない。お前だって知ってるだろ?」
桐生は何とも煮え切らない顔をする。
「あの、お二人は何の話を?」
完全に話についていけていないソラ。
「ああ、そうか。そういやこないだは結局教えなかったのか。まあいいか、どうせいずれ話すことだ。その前に、マキ。お前の今日の話をまずしてやれ」
桐生は、体育館から自分の教室に戻ってからの顛末について説明した。
「なるほど。で、先輩はどうしてこれを一度聞いただけで窃盗犯だと断定出来たんですか?」
ソラは大方の状況を理解した上で夢路に質問を投げる。
「まずは一つ訂正だ。今の話は俺もマキの口から初めて聞いた」
「え? じゃあなんで、マキさんが部室に入ってきた時点で会話が成立してたんですか?」
「能力さ。俺は『ドリーム』っていういわゆる予知能力を持っていてな。ただし、それは夢を見ている時にしか発動しない」
「つまり、予知夢を見る能力だと」
「そういうことだ。マキの未来も俺は今朝の時点で知っていた。ただ、未来ってのは不確定なようで融通の効かないところもあってな。あまりに近い予知はどうやったって覆せないんだ」
ようやくここでソラの理解が追いつく。
「でも、何が起こるか事前に教えておくだけで心構えは用意出来るじゃないですか」
「色々細かい条件があってな。今日の夢の主がマキだと知ったのはついさっきなんだよ」
夢路の能力も、何だかんだで面倒くさい力のようである。
「で、犯人は予知出来た?」
マキは椅子に座ってコーヒーを飲んで一息つく。
「そんな便利な力なら苦労してねえよ。ただ、ある程度容疑者を絞り込むことはできる」
「お願い、聞かせて」
「仰せのままに。まず、犯人はウチの生徒で、三限目の授業を受けてない奴だ。これなら数が相当絞れる」
「確かに。でも、私みたいに授業受けてても、トイレとか言って抜け出すのは出来るんじゃない?」
桐生が疑問を投げかける。
「けどそれだと、かなり目立つんじゃないですか? 犯人は出来るだけ誰にも見つからずにひっそりと、と考えるのが自然な思考かと」
「なるほど、確かにそうかも」
ソラの主張を桐生は受け入れる。
「あともう一つ、絞れる要素がある」
「何? それって」
「お前の盗まれたユニフォームだよ。盗むってことは、これを取って犯人に何らかのメリットがあるってことだ」
「メリットねー。そんな人居るの?」
桐生は首を傾げている。
「ああ、居る。まず、お前を性的対象として見ている変態」
「変態って、そこまで言っちゃうんですか?」
ソラが目を見開く。
「当たり前だ。犯人はいわば下着ドロみたいなものだぞ。十分変態野郎だ。そしてもう一つ、お前がユニフォームを持ってなくて得する奴だ」
「ユニフォームを持ってなくて得する? どういうこと?」
再び桐生が首を傾げる。
「つまり、お前が試合に出れなくて出番が回ってくる奴だ。お前はニ年生ながら全国経験者でもある。どうせリレーとかでメンバーに入っているだろう? それを面白く思っていない部員が盗んだって線だ」
夢路は思いついた犯人像について話し終える。どちらも可能性のある線だとソラは感じたが、後者の方がマシかなと直感する。
『流石に、変態とまで言われる人には会いたくないなあ』




