屋上からの失踪(5)
「はい、全員集合!」
体育担当の渡辺先生から号令がかかり、男女一同が整列する。
「これから男女それぞれチーム形式で試合を行なってもらう。メンバーはこちらで決定した。学年混成となっているため、まずはきちんとコミュニケーションを取るように」
その後、発表されたチームでの試合が開始する。ソラは二試合目であるため一試合目は見学する。
「一緒のチームだったね」
桐生がソラの側による。
「マキさんと同じだと心強いです。私、あんまり運動得意じゃなくって」
「私もバスケは素人だから、あんまり過度には期待しないでね……あれ、あっちはリュウが出るんだ」
ソラは振り返ると、遠目から見ても分かる巨体がコート上に立っている。桐生の言う通り、夢路だ。
「そういえば、この前先輩が泳いでるところ見たんですけど、結構運動できる人なんですか?」
「そうだね。何もさせずにおいておくのがちょっともったいないくらいに。あんだけ体格もあるんだったら、それこそバスケとかで良い線いけそうだろうし」
コート中央でボールが高く挙げられ、試合開始の合図が鳴る。桐生とソラはその様子を眺める。
***
『全く、厄介なことになったな』
試合が始まるほんの数分前、夢路は渡辺先生から声を掛けられる。
「今からの試合で勝てたら今日は見逃してやる」
流石にボールに触れずに授業の半分を過ごした生徒を見過ごすほど甘くはないらしい。今日は実質人数倍だからチェックが甘くなると思ってタカを括っていたのが不味かった。
夢路は諦めて、大人しく味方の戦力分析を始める。一年生ながら百八十二センチの高身長、青木。同じく一年で小柄な分素早い(多分)、斎藤。二年生で反復横跳び六十六回のバネを持つ、木村。そして、生まれたての子鹿、山口。虚弱の代名詞としても名高い男だ。
若干不安があるが、そんな贅沢は言ってられない。相手だって所詮はランダムに決められたメンバーである。こちらと大して変わらないレベルのはず。
そう思って夢路が相手のコートへ振り返ってみると、意気揚々にスリーポイントの練習をしているバスケ部員が二人もいた。どうして、三組に二人しかいない現役のやつらを同じチームにしてしまうのだろうか? 夢路は教師の手抜きな仕事ぶりを恨む。
『はあー、こりゃダメだろうな。いや、まさか渡辺のやつこれを知ってて言ってきたのか』
何と極悪非道なやつだ、教師の風上にもおけない。夢路は一人で勝手に復讐の憎悪を燃やした。
***
こうして不安だらけで始まった試合だったが、いくらバスケ部と言っても二人だけでは完璧なチームプレイは出来ない。それに何故か二人はスリーポイントに拘っていた。ならば中は捨てて外にのみ集中する。
どうせ他の面子ではゴール出来ないから、自然にこの二人にボールは集まってくる。それに加えて時間も十分間のみのワンゲーム。試合は両者無得点の膠着状態がしばらく続いた。そして遂に、夢路たちにチャンスが訪れる。なんとあの山口が、相手のパスをスティール。そのままゴールに向かってドリブルをしていく。
しかし、相手もそう簡単には入れさせてくれず、山口にすぐ追いついてきた。困った山口は、味方にパスをするのも忘れ、左手を胸辺りに置いて右手を高く上げて片手でシュートをする。何とも変なフォームに見えたが、そのシュートは見事にゴールを決めたのだった。後で聞いたのだが、苦し紛れの山口のシュートは、フックシュートというのにフォームが似ているらしい。このシュートが決定打となり、夢路は見事に勝利を収めた。
「おめでとう、まさか勝つとは」
渡辺が夢路に拍手を送っている。こいつ、何と底意地の悪い男だ。夢路は一礼で返し、再び体育館の床に腰を下ろした。この劇的な展開に男子が沸いている中、女子の方では何やら人が集まってざわついている。
『何か嫌な予感がしやがる』
夢路はたまらず立ち上がり、ネットの奥を伺った。




