屋上からの失踪(3)
「実は能力の練習をしていたんです。私あまり人に能力を見せたくなくて……」
能力者が自分の能力を隠す。全生徒が能力者であるこの学園でも、別に珍しいことでもない。
世間からの影響もあってか、能力者の大半は自分の能力に自信が持てず、どこか恥のように感じてしまう。実際、能力が原因でいじめや家族で迫害まがいの扱いを受けるなど、昔にはよくあることだったらしい。
「ずいぶんと熱心なんだね。見たとこ浮遊系の能力なのかな?」
「はい、正解です桐生さん」
「あれ?私達ってどこかで会ってたっけ?」
桐生が人の顔を忘れるなんて、ソラは少し意外に感じた。夢路なら平然と言いそうであるが。
「いえ。実は私、桐生さんのファンなんです!」
ファン? よく分からない単語にソラは首を傾げる。
「明日の大会、頑張って下さいね」
「うん、ありがとね」
一方桐生はいつもの調子で対応している。これは当たり前の日常の一コマなのか?
「お前さんさ。もしかして、木の上から落ちたのか?」
夢路は周りを見渡し、彼女に起こった事態を推測している。
「そうですけど、それがどうかしたんですか?」
「いや、この木に登れるとなると相当運動神経いいんだなって思ってよ」
夢路に言われてソラは上を見る。おそらく彼女が落ちたと思われる木は、一番低い枝まで三メートル近くの高さがある。男子のバスケットボール部員ならともかく、彼女の背丈を考えれば、とてもじゃないが普通には登れないだろう。
「ああ、それですか。簡単ですよ」
彼女は木の近くに歩いて行って、まず思いっきりジャンプをする。当然これでは届かないが、ここからが彼女が普通ではないところ。そう、つまり能力だ。彼女はジャンプの最高打点でピタリと止まり、そこから更に上から何かで吊り上げられるようにゆっくりと上昇していき、ついに最初の枝に両手をかける。あとは懸垂の要領で上によじ登る。
「どうです! これが私の能力『フライト』です!」
文字通り上から目線で自慢される。人によっては自分の能力に、識別のためや愛着を持つために名前をつけるそうだが、彼女はまさに後者だろう。そして後は豪快にそのまま飛び降りてくる彼女。足がジーンとならないのだろうか?
「凄いね。本当に飛べるんだ!」
マキが驚きの声を上げる。ソラは自然と拍手を送っていた。
「はい。でも飛べるのは能力を発動させた高さから五十センチだけなんです」
さっき、木に登るのにジャンプを挟んだのはそのためだったのか。ソラはようやく彼女の能力の全容を把握出来た。
「俺はニ年の夢路っていうんだけど、アンタは?」
「一年の津村です。そちらの方は?」
「私は、今際。同じく一年生です」
この場にいる全員が自己紹介を終える。
「まあ、またなんかあったらよろしくな。特に高いところの探し物とか」
夢路は足早に雑木林を去る。そろそろ寄り道を切り上げないと、また次の日直をやり直しさせられそうだと感じたのだろう。桐生とソラも軽く会釈をして夢路の後を追う。
「津村さんのアレ、すごい能力ですね」
ソラが目を輝かせて言う。
「けど今考えるとやっぱり微能力だな。五十センチしか飛べないなんて。せめて一メートルくらいあったらな」
夢路は否定的な言葉を投げる。
「えー、便利だと思うけどな。日常生活で使えそうだし。だって、踏み台とかいらないんだよ」
「しかも、わずかな範囲とはいえ飛べるんですよ! すごく夢があるじゃないですか」
「そうだな。誰かさんの能力よりは全然マシだな」
「あ! そんなこと言うんだったらもう起こしてあげないよ」
「冗談だって、冗談。そんな怒るなって」
夢路が慌てて取り繕う。流石は幼馴染、あの夢路をこうも手玉に取るとは。ソラは桐生への尊敬を更に深めた。




