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中途半端は大変です!  作者: 平下駄
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無力な容疑者(2)

 無事テニス部に辿り着いた二人は、各々で活動に打ち込む。正部員のミナミは普通の練習を、仮部員のソラは三年生にラケットの持ち方などの基本的なことを教わる。

「ソラちゃん、上手だね。もしかして経験者?」

「いやいや、そんな褒められるほどでは。あ、タオル取ってきていいですか?」

「どうぞご自由に」

 ソラはテニス部の部室へ駆けて行った。


「白瀬さん、どうですか? ソラは」

 ちょうど休憩になったミナミが、部長の白瀬の下を訪れる。

「ミナミの友達だからあんまり言うのはアレだけど、将来高い壺とか買いそうなタイプだね」

「いや、純真無垢とかもっと言いようがあるでしょ」

「ああ、確かに。ピュアで可愛らしい女の子だね。背もちっちゃいのも高評価」

『節操ないんだな、この人』


 自身が背が高いことの裏返しか、白瀬は小さい物が好きという話を先輩から聞いたのをミナミは思い出した。百八十センチの小物好き、アンバランスなのか適当なのか。

「で、肝心のテニスの方は?」

「うーん、多少腰の動きがぎこちないけど、それ以外は普通に上手だよ。中学で何かスポーツやっていたのかな?」

「中学はワンダーフォーゲルと書道だそうです」


「奇抜な組み合わせね。実際のところ、ウチにはいってくれそう?」

「本人は、高校で新しいことしたいって言っていたので可能性は結構あるかと」

「なるほど。ウチは正真正銘初心者でも歓迎しているし、入るんだったら早い方がいいだろうね」

 白瀬がわざと遠くを見つめながら話す。


「無茶な勧誘はやめてくださいよ」

「えー、でも押したら簡単そうだし。ミナミだって、友達入った方が楽しいでしょ?」

 部長の狡猾さに、ミナミは眉をひそめる。


   ***


『そっか、私結構才能あるんだ』

 白瀬にまんまとおだてられたソラは、鼻歌混じりにスキップしながら、テニス部の部室へと向かう。

『あれ、部室ってどこだっけ?』

 同じ構造の建物が並ぶ部室棟と、来る時はミナミの案内に従っていただけだったため、ソラは完全に迷子になってしまう。仕方なく端から端までしらみ潰しで確認することとなる。当然普通に真っ直ぐ部室に行くよりも多くの時間を費やしてしまう。

 ようやく発見したテニス部の部室の前では、三人の男女が勢いよく楽器を吹いている。どうして彼らはこんなところまでやってきてわざわざ練習をしているのだろうか。吹奏楽部たちの存在を訝しみながらも、ソラは目的のタオルを取りに部室へ歩を進める。すぐさま事を済ませて、再びコートへ駆けて行った。


   ***


「お待たせしましたー」

 タオルを握りしめてソラが帰ってくる。

「遅かったね、もしかして迷った?」

 首を長くした白瀬が口を開く。


「そうなんですよ、どれも同じ部室に見えて」

「確かに部室棟は全部同じ構造だし、初めてならそうなるよね。さて、ミナミたちも練習してるみたいだし、私たちも再開しよっか」

 借り物のラケットを握りしめ、ソラはボールを強く打ち付けた。


   ***


「そろそろ時間だし、今日はこのくらいにしておこうか」

 白瀬の声を聞き、ソラは辺りを見渡す。気付けば陽が傾き、テニスコートが赤く染まっている。最後に皆が集まってミーティングが行われ、その日の練習は終了した。


「どうだった、テニス部は?」

 ミナミがソラに感想を尋ねる。

「私、結構才能あるかも! 楽しかったし、部長さんにもいっぱい褒められちゃった」

「へえ、楽しかったなら何より。だったらテニス部に決めちゃう?」

「そうだね、他に何か候補がある訳でもないし……何かあったのかな?」


 ソラとミナミは目の前の人集りのために足を止めた。見ると、テニス部の部室の前で何か騒ぎがあったようだ。

「何かあったんですか?」

 ミナミが同じテニス部員に話しかける。

「なんか、田中ちゃんがサイフからお金が無くなったって」

「もしかして、盗難とか?」

「うん、だから今生徒会や先生呼んで来てるらしくて。部員はみんな下校しないでって待たされてるの」


 先輩から事態の概要を聞き、ミナミとソラは納得する。部員たちが何とも言えない落ち着かない様子でざわついてる。

「ひょっとして、ソラ。とんでもない日に来ちゃった?」

 自ら勧誘した友人は、少し申し訳無さそうに苦笑いする。

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