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中途半端は大変です!  作者: 平下駄
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不測の痛み(終)

「今回の件は、別にこの第六レーン特有の問題じゃない。というか、全てのプールで起こり得ることだ。では、何故ここだけこむら返りを起こす者が多発したのか。お前たち、いつも練習をする時どんな風にレーンを割り当てる?」


「基本は、三年生が一・二レーン、二年生が三・四レーン、一年生が五レーンのみって感じかな」

 代表して河野が答える。


「もし、六レーンが使えるのであれば当然一年生が使うことになる。この、一年生が第六レーンを使うってのが問題なんだよ」

「別にどこで泳いだって同じじゃないですか?」


「そうでもないさ。考えてみろ、入部したての四月。一年生がまだ新入生と呼ばれる時期だと、彼らはまだ中学生の頃の感覚に慣れているはずだ。中学生のときは二十五メートル、しかし高校のプールは五十メートル。これをもし、中学生の感覚で泳いだらどうなる?」


「オーバーペースだろうね。下手したら倒れちゃうかも」

「水泳は全身運動だ。ただ泳いでいるだけでもキツいのに、その上でのオーバーペース」

「そうか、だから十分に呼吸が出来なくなるんですね」

「そういうこった。正確には肺に酸素が行かなくなる」

 夢路の話を聞き、感心するソラ。しかし、同時に一つの疑問が湧いてくる。


「まだペース配分を分かっていない一年生が足をつるってのは理解できましたけど、そんなに都合良く第六レーンばかりで起こりますかね?」

 いくら何でも偶然ここだけに固まったということは考えづらい。


「それにも理由があるんだろうよ。例えば、奇数レーンは上手いやつ、偶数レーンは下手なやつみたいな感じで部員の練習場所を分けてるんじゃないのか?」

 水泳部たちの動きが止まる。どうやら正解らしい。


「そして、ここでの呪いを破ろうとして頑張るやつもいたみたいだが、プレッシャーを感じて焦ってしまい、ついつい無理をして泳いで酸素不足。なんて事態もあっただろうよ」

 思えば、河野も夢路と同じように個人メドレーを泳いでいる最後に足をつってしまった。これは、疲労が蓄積された結果なのだろう。


「以上が俺の話だ。今のを聞いてここで泳ぎたいやつは泳げばいいさ」

 夢路は無理に使用することを推奨しない。それは、人間の思い込みによる壁を理解しているからだ。


 そう言った矢先に、勢いよく第六レーンに飛び込んだ者がいた。それは部長の河野である。

「二人とも、ありがとー!」

 そう叫ぶと、水泳部の皆が探偵部に拍手を送る。この部活は温かいのだろうと、ソラは直感した。


   ***


「今日の事件も、解決して良かったですね」

 夢路とソラが部室に帰る途中。


「まあ、これで恒常的に第六レーンが使われるようになればの話だろうけどな。それより、今日の件はお前さんの弱さが露呈したな」

「弱さ、ですか?」

 ソラは首を傾げる。


「何でもかんでも事件の原因を能力のせいにしようとして、物事の本質を見失った。視野狭窄ってやつさ」

 その通りだと痛感し、ソラは黙り込む。


「でも、教師に発想を飛ばした点は面白かったな。あれはやっぱり成長だろう」

「え、本当ですか? やったー!」

 元気良くソラは部室の扉を開ける。


「今日はもう帰っていいぞ。あとは俺がやっとくから」

「いいんですか? なら、お言葉に甘えさせていただきます。日誌も途中までは書いてありますから。それじゃあ、また明日!」

「おう、よろしくな」


 ソラはスキップしながら寮に帰って行った。廊下から足音が消えるのを確認する夢路。

「さてと、じゃあ行くか」

 

   ***


 夢路が向かったのは旧校舎一階の一番奥の部屋。壁には「超研会 学生支部」と書かれている。おそらくこの教室に用がない人以外絶対に立ち寄らない場所の扉を開けて、夢路は中に入る。そこには、明眸皓歯めいぼうこうしの女子生徒が一人、パソコンに向かって作業していた。


「よう、お市。調子はどうだい?」

「私の名前はアイリですヨ。良い加減ちゃんと覚えてくださイ。それで、ユメジさん。ご用件は何ですカ? 忙しいので、無意味な探り合いは勘弁でス」

 カタコトな物言いに夢路は出鼻を挫かれたが、調子を変えずに問いただす。


「今際 空の素性を教えろ」

「え、いきなり乙女のプライバシー聞いちゃうんですカ? それも自分の同じ部活の後輩の情報なんテ。意外と奥手なんですネ」

「お前さん、さっき自分で言ったこと覚えてないのか?」

 探り合いは無意味である。


「ちゃんと覚えてますヨー、そんな怖いカオしないでくださイ。イマワさんですか、うーん……全部は言えませんけど、あの子は紛れもなく能力者でス。ちゃんと戸籍のある両親から生まれたネ」

 夢路は黙ってアイリの様子を観察する。


「PSPの値が1,000を超えると、超研会はその人を能力者だと認めていて、あの子はその基準を満たしていル。つまり、能力が発現しているかは関係なイ。……これ以上は言えないネー」

「そうかい。色々とありがとうよ」

 それだけ言って夢路は部屋を出て行く。


「静かな奔馬ほど恐ろしいものはない、ですか」

 その姿を見てアイリがこぼす。二人の間で様々は思惑が交錯する。

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