不測の痛み(4)
「あ、ソラちゃん! 何か分かったの?」
本日二度目の屋内プールにやって来ると、再び河野の方から声を掛けてくる。
「実は、先輩が呪いを解くって」
「え、夢路くんが? ……って、どこにいるの?」
「さあ。私も先に中に入ってろとしか言われてなくて」
水泳部の全員がざわつき始める。今から何か起こるのは伝わったが、しかし肝心の役者がいない。あれから部室を出て、夢路は学生寮に一度戻り何か荷物を取って来ていたようだが、ソラもその中身までは分からない。
「悪い、遅くなった」
ソラが声の方を振り向くと、そこには水着にスイムキャップとゴーグルを着用した夢路が立っていた。百八十センチを超える恵まれた肉体に、いつも寝てばかりとは思えない程に引き締まった筋肉。その場の皆が、一堂に注目した。
「先輩? 何してるんですか?」
「見ての通りだ。これから泳ぐんだよ。水泳部の諸君、少しの間邪魔するぜ」
それだけ言うと夢路は返事も聞かずにプールの奥に歩いて行く。
「先輩! ダメですよ泳いじゃ! さっきまでの私の話聞いてました?」
「俺は泳ぎに来たんじゃねえよ。これは……そう、除霊だ除霊。今からここを清める。確か、はじめはバタフライだったか」
夢路は第六レーンの前に立つ。そして、綺麗な飛び込みを決め、泳ぎ始める。
その場にいた全員が「ああ、また被害者が」と思ったが、そんなこと気にせず夢路は泳ぎ続ける。五十メートルの向こう岸に辿り着くと、華麗にターンを決めて背泳ぎで帰ってくる。
「え、上手くね?」
「何なら、俺らよりも速くね?」
部員たちがそう呟く。皆もそれに同調する。
「もしかして、個人メドレー?」
河野がポツリと言葉を漏らす。そして次は平泳ぎ、最後は自由形で見事にフィニッシュを決める。
「チビ助、タイムはいくつだ?」
「えーっと、測ってません」
「そりゃ、残念。結構良いタイムだっただろうに」
「夢路くん、もしかして中学は水泳部だった?」
「いや、全然。それより、アンタが例の部長さん?」
河野が黙って頷く。
「見ての通り、ここは呪いなんて何もないただのレーンだ。俺みたいな素人が個人メドレー泳げるくらいにはな」
「今のはどう見ても素人じゃないだろ」と、ソラですら思った。しかし、今は夢路の泳ぎは置いておいて。
「先輩、どうして足つってないんですか?」
皆が気になっているもう一つの話題へとシフトする。
「そもそも足がつる、つまりこむら返りはどうして起こるか知ってるか?」
「激しい運動とかで急に足をかけすぎちゃう、とか?」
「主な原因は水分不足や、栄養不足、ホルモンバランスの崩れとかだな。一応うつとかの精神的なものでも起こり得るらしい」
夢路が突然医学の知識を話し出し、周りは混乱する。
「夢路くん、それが今回の件と何が関係あるの?」
「いや、全く。今回こむら返りが起こった原因は他にある」
「それは?」
「酸素不足、つまり呼吸を上手く取れてなかったことだ」
水泳部員たちは困惑の色を浮かべる。




