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中途半端は大変です!  作者: 平下駄
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第3話 不測の痛み(1)

『おっと、何だこれ?』

 画面がいきなり明るいところから白い泡で覆われて……ああ、水の中を出たり入ったりしてるのか。この激しい泳ぎ方は、バタフライだな。何であんな疲れるだけの泳ぎ方してるんだ? コイツは。

 ここからどんな展開になるのか。まあ、鼻に水が入ったとか、そういうしょうもないやつだろう。


 そう思ってしばらく見ていると、今まで前を向いていた画面が足に視線を落とす。左足を両手で抱えている様子がギリギリ映ったところで、画面が消える。ったく、これからだろうにタイミング悪いぜ。


   ***


 こんにちは、今際いまわ) そら)です。私が先日立ち上げた「探偵部」が設立してはや二週間。暦は五月に突入しており、少し日差しが夏に向けて強まっているのを感じます。先日の美術部部長の高木さんから始まり、私たちの元にやって来るお客さんもそこそこいらっしゃいます。


 ただ、そのほとんどが事件というほど大袈裟なものではなく、お悩み相談や、単なる落とし物捜索となっています。確かに物騒なことが頻繁に発生すればこの学校の治安を疑ってしまいますが、かといって平和過ぎるのも退屈です。


 今部室のベッドで寝息を立てている先輩はそれでいいのかもしれませんが、私としてはもう少し刺激もといロマンが欲しいところです。と、一人で独白を続ける私の元に今日もお客さんがやって来ました。


 ソラは部室の扉が開くのに合わせて立ち上がる。

「ようこそ、探偵部へ!」

 そこに立っていたのは見知らぬ女子生徒。百七十センチ程の背丈に、スラリと引き締まった身体。上履きの色は青、三年生の生徒だ。


「ちょっと相談があって来たんだけど、今大丈夫?」

「はい、もちろん。どうぞお掛けになってください」

 ソラは応接セットの椅子を勧める。三年生とソラが正対すると、向こうから口を開く。


「私、三年生の河野。水泳部の部長やってまーす」

「一年生の今際ソラです。一応ここの部長です」

 二人の間で簡単な挨拶が交わされる。


「それで、相談っていうのは?」

「その前に、後ろの彼は起きないの?」

 河野は夢路に視線を向ける。


「あー、先輩は一旦寝てしまうとしばらくは起こしても起きてくれないので……」

 この二週間で培った経験則である。

「そう、それは残念。じゃあ、ソラちゃんにだけ話すね」

 河野が視線を戻し、語りに入る。


「実は、今回相談したいのは『呪いの第六レーン』についてなの」

「『呪いの第六レーン』ですか?」

「水泳部が使っている屋内プールには、全部で六つの五十メートルレーンがあるんだけどね、その一番奥の第六レーンでは、とても不思議なことが起こるの」


「不思議なこと?」

「そこで泳ぐ人は全員、必ず足をつってしまうの。ただ一人の例外もなく」

 絶対に足がつる水泳コース、なんて欠陥品であることか。ソラは頭の中で酷評する。


「何でも、今屋内プールが建っている場所が昔水難事故にあった人々を慰めるためのお墓だったらしくて。それの呪いや祟りってことになってるの」

 ソラは正直言って迷信深い方ではない。話を聞いて眉をひそめる。


「ソラちゃん、あんまり信じてないでしょ?」

「まあ、正直な話そうです」

「実は私も。そんなふざけたオカルト話なんてとっとと終わらせて、プールを有効活用したいんだよねー。一年生が入って人も増えたしさ」

 この流れだと、件の第六レーンの呪いを解け、とでも言われるのだろう。ソラは内心で頭を抱える。


「でさ、実は昨日私第六レーンで泳いでみたんだ。これで無事泳ぎ切れば、呪いなんてないことの証明になると思って」

 なんと命知らずなのか。確かにソラもこの件に関しては全くもって呪いなんて信じていない。それでも、いざそこで泳げと言われるとやはり抵抗を感じてしまう。河野の豪胆さにソラは目を見張る。


「それで、足は大丈夫だったんですか?」

「いや、これがさ。見事に足つっちゃたんだよねー。調子乗って個人メドレー泳いでたら、最後の最後でやっちゃった」

 河野は舌を出して笑っている。ソラと同様に呪いを信じていない河野までもが足をつってしまった。この事実は一考の余地がある。


「足をつった時、何かに引っ張られたとかそういう感覚はありましたか?」

「うーん。あったような、なかったような。正直そこらへんのことあんまり覚えてないんだよね。こっちも真剣に泳いでたから」


「他に第六レーンで泳いで、足をつってしまった人とかは?」

「いないかな。皆怖がって使おうとしなかったから。私の知る限り先輩たちにもいなかったよ」

 いよいよお手上げである。まさか本当に呪いのせいなのだろうか。


「そこで相談があるんだけど、この呪いの第六レーンの件、何とかしてもらえない?」

 ソラが白旗を上げたのと同時に、河野からの申し出。

『どうしよう、全く解決できる見込みがない……』

 ソラはかつてないほどの諦念を感じる。


「無茶を言ってるのは承知なんだけど、お願い! 私の仇をどうか取って!」

 河野は頭を下げて懇願する。その姿にソラは少し勇気をもらう。

「分かりました。どこまでお力添えできるか分かりませんが、出来る限りのことはやってみます」

「ありがとう! ソラちゃん!」

 満面の笑顔とともに熱い握手を交わして、河野は探偵部を去った。


「……とりあえず、何からすればいいのかな?」

 ソラは一人長考に沈んだ。

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